「話してくれて、ありがとう」

 私はその言葉をかみ締めるように、もう一度頷いた。

「最初は、マオが望むなら他の猫又に預けようかとも思ったんだ。
マオも、俺の家に来たばかりの時は全然笑ったり喋ったりしなくてな。
でも、一緒にいるうちに、よく笑ったり、お父さんって言ってまとわりつくようになって。……そうなると、もうどこか別のところへなんて、考えられなくなった」

 そう話す廉冶さんは、確かにお父さんの顔をしていた。

「にしても、廉冶さんが子供を育てるって、何だか意外だね」

「俺も似合わねーとは思うけどよ。昔の自分みたいで、ほうっておけなくてな」

 昔の廉冶さんって、どんな感じだったんだろう。子供の頃は一緒に遊んだけれど、その後の廉冶さんのことを、私は何も知らない。
 でも、きっといつか教えてもらえるだろう。

「それでしばらくは本土で二人で暮らしてたんだが、近所の人間に、マオの耳と尻尾を見られてな。
騒ぎになってそこで暮らすと面倒だったから、この島に帰ってきたんだ。どうせ弥生を迎えに行ったら、この島で暮らすつもりだったし、ちょうどよかった」

「そっか……」

 廉冶さんの話を聞いて、ほっとしていた。

「てっきり隠し子とか、愛人の子とかそういうあれかなって、ちょっと思ってたから。全然違ったね。安心しちゃった」 

 それを聞いた廉冶さんは、呆れたように息をつく。

「隠し子って……お前は俺を何だと思ってるんだ」

「だって……!」

 廉冶さんは私の頬に手をかけ、目を細める。

「俺の嫁はお前だけだって言っただろ?」

 その響きが甘くて、いたたまれなくなる。

「れ、廉冶さんの言葉って、何だか信じられなくて」

「俺の言葉が信じられない? 傷つくな」

「ち、違くて! 廉冶さんって、かっこいいから」

「かっこいいとどうして信じられないんだ?」

「かっこいい人って、色んな人に好きだって言われるでしょう。廉冶さんだって、色んな人に好きだって言われたでしょう」

「あぁ、言われたな」

 そこは素直に肯定するんだ。

「ほら!」

 廉冶さんは当たり前のように、キッパリと言い切る。

「でもそんなの、何も関係ないだろ。俺には弥生だけだよ」

そう言ってきゅっと抱きしめられて、耳まで熱くなる。すぐ近くで視線がぶつかると、よりいっそう胸が苦しくなった。
 廉冶さんが、私のことを思ってくれているのは伝わる。

 でも、やっぱりまだ心のどこかで信じ切れない。
 それは廉冶さんのせいじゃない。私に自信がないからだ。

 私たちは幼い頃に遊んだだけだ。私には、素敵な男性になった廉冶さんに愛されるような理由がないと思ってしまう。
廉冶さんは、本当に私のことを好きなんだろうか。一体私のどこを好きなんだろう。

聞かなくてはいけないと思うけれど、つい臆病になってしまう。

「弥生」

 廉冶さんの声が耳元で響いて、身動きが取れなくなる。
 彼の唇が私に近づいてきて、ぎゅっと目をつぶった。

 キスされる……!