私が悩んでいると、「そうだぞ」と落ち着いた声が聞こえた。
正面を向くと、黒い和傘を差した廉冶さんが立っていた。
マオ君が弾かれたように顔を上げる。

「お父さんっ!」
「悪い、一回傘取りに戻ったから、時間がかかっちまった」

 廉冶さんはマオ君の側に歩いてきて、マオ君を抱きかかえようとする。
 いつもだったらマオ君は廉冶さん目がけて胸に飛び込んでいくけれど、マオ君はその場から動こうとしない。

 廉冶さんは自分からマオ君を抱き寄せ、いつものように大きな手で彼の頭を撫でる。

「よく聞いてくれ、マオ。
俺は今まで、一度もお前がいらないなんて思ったこと、ないからな。それは、これからもずっとだ。俺とマオは、ずっと一緒だ」

「ずっと、ですか……?」

「あぁ。マオがお父さんなんていらなーいって思うまで、側にいるよ」

「そんなの、思わないです!」

 廉冶さんはおかしそうに微笑む。

「そうか。だったらずっと一緒だな。だから、自分がいらないなんて言うな。そんな心配、しなくたっていい」

 廉冶さんはもう一度マオ君をぎゅっと抱きしめて言う。

「心配したぞ、マオ」

 マオ君はわんわん泣きながら、廉冶さんにしがみついた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。お父さん、ごめんなさい!」

「うん。無事でよかった。家に帰ろうか」

 公園を出て歩き出すと、マオ君は色々あって疲れたのか、廉冶さんに抱かれて安心したのか、すぐに寝息を立て始めた。
 私は安らかな表情で眠るマオ君を見て、ほっとした。

 あんなに強かった雨もいつの間にかやんで、なだらかな坂道を歩いていると、遠くで潮が満ち引きする音が聞こえた。外はすっかり暗くなり、月が私たちを照らしている。

「弥生、ありがとうな。マオを探してくれて」

「いえ、そんな。むしろ、私がもっと、マオ君をちゃんと見ていられたら、こんなことにならなかったのに」

「弥生は悪くないって。むしろ、俺が弥生にまかせっきりにしすぎたんだ。
弥生はこの島に来たばかりで不安だったのに。ごめんな」

「い、いえ、私の方こそ……」

 互いに謝りあって、それから視線が重なり、二人で微笑みあう。

「今日は弥生も疲れただろ? 外に何か食べに行くか? 出前でもいいぞ。まぁこの島でやってる店は、限られるけど」

「ううん、大丈夫! むしろ、作ってみたいものがあるから!」

「そうか?」

「うん!」

 マオ君、自分はお手伝いができないって気にしてたから。私はある作戦が思い浮かび、わくわくした。