私はおじいさんにお礼を言って、公園に向かって必死に走る。
「マオ君、マオ君!」
公園に向かう途中で、ポツポツと弱い雨が降り出した。
空を見上げると、真っ黒な雲が広がっていた。
「雨が降ってきちゃった。早く見つけてあげないと」
私は公園に飛び込み、周囲を見渡した。
この島には公園がいくつかあるけれど、島の中心に一番新しくて遊具がたくさんの公園があるので、子供たちはたいていそこで遊んでいる。マオ君も、いつも公園で遊ぶ時はそこへ行っていた。
だから島の端にある、この寂れた公園は盲点だった。
私も中に入ったことはない。
「マオ君、いるの?」
公園はしんと静まり返っている。
もういないのかな……。
念のため公園を一周しようとすると、筒状になった滑り台の中から、小さな靴が見えた。
「マオ君!」
そう叫んで近づくと、滑り台の中で膝小僧を抱えたマオ君が座っていた。
びくっと小さな肩を震わせ、瞳に涙をためている。
「よかった、よかったぁ……」
私はその場にへなへなとしゃがみ込む。
「心配したんだよ。それに廉冶さんも心配してる」
「お父さんもですか……?」
「そうだよ。雨も降ってきちゃったし、とりあえずお家に帰ろう?」
そう言って手を伸ばすけれど、マオ君は小さく首を横に振る。
「嫌です」
小さな声だったけれど、そこに込められた意思は固いようだった。
「えっと……とりあえず、廉冶さんに連絡しておくね」
私は廉冶さんにメッセージを送り、公園でマオ君を発見したことを伝える。
それに、喜代さんからもメッセージが入っていた。私は彼女にも無事にマオ君が見つかったことを報告する。
「行こう、マオ君」
しかしマオ君は膝を抱えて、滑り台の中から動こうとしない。
「……僕、ダメな子なんです。人の前で、尻尾と耳が出ちゃったから」
「仕方ないよ。完全に隠すの、難しいんでしょう? マオ君はまだ小さいんだもの。私がもっと注意していればよかったんだよ」
「でも、ダメなんです!」
そう言いながら自分の膝に顔を埋めるマオ君を見ると、胸が痛くなった。
「化け物だって言われたのが、辛かったんだよね。マオ君の気持ち、分かるよ」
「……嘘です。弥生は普通の人間だから、分かりません」
「本当だよ」
マオ君はキッとこちらを睨みつける。
「嘘つきは嫌いです!」
どう言えば、マオ君に伝わるだろう。
考えながら彼を眺めていると、マオ君の膝が赤くなり、血が滲んでいるのに気づいた。
「膝、擦りむいてる。痛かったでしょう?」
私が触れようとすると、マオ君は後ろに下がってその手を払い除けようとした。
「触らないでください!」
「でも……」
「弥生には分かりません。弥生は人間だから! 僕の気持ちなんて、分かりません!」
「ねぇマオ君、見てて」
私は一度深呼吸をして、息を整えた。
それから、マオ君の膝の近くにそっと手の平を寄せる。