マオ君は小さくて、おまけに猫のようにどんな道でも通れてしまう。
 私も同じ道を通ろうとしたが、さすがに大人が入れる場所ではなく、すぐに姿を見失ってしまう。

「えっと、この道、どこに繋がっているんだっけ……」

 私はまだこの島の地理を完全に把握していない。
 子供の頃はあちこち走り回っていたけれど、さすがに十年以上経って、建物の場所も変わってしまった。

 とはいえ狭い島だ。島全体を一周しようとしても、一時間くらいでまわれてしまう。

 すぐに見つかると思ったのに、探しても探してもマオ君の姿はどこにも見当たらない。

 焦っているうちに、時間ばかりが経過していく。

「どうしよう……」

 おまけに空もだんだん曇ってきた。弱り目に祟り目だ。
 もしかしたら、もう家に帰っているかもしれない。

 そう考え、私は廉冶さんの家まで戻る。

 しかし、やはり玄関にマオ君の靴はない。
 私は廉冶さんの仕事部屋に飛び込んだ。

「廉冶さん、マオ君、帰ってる!?」

「いや、いないけど……」

 ただならぬ様子を感じ取ったのか、いつものように毛筆を握っていた廉冶さんは、仕事を中断して立ち上がり、私の肩を支えて問う。

「どうしたんだ、弥生。顔が真っ青だぞ」

「マオ君が、いなくなっちゃったの!」

「いなくなったって……でも、島のどこかにいるんだろ?」

「そうだけど……。幼稚園で、猫の耳と尻尾を、お隣の悠人君に見られちゃって。それで、化け物って言われて、逃げ出したの」

 涙が出そうになり、目蓋をごしごし擦る。

「私がちゃんと見ていなかったから! どうしよう。マオ君に何かあったら、私のせいだよ!」

 不安で目の前が真っ暗になっていた私を、力強い腕がぎゅっと抱きしめた。

「あ、あの……」

 廉冶さんの大きな手が、私の背中を優しく撫でる。
 彼の着物からふわりと墨の香りが広がって、すとんと心が落ち着いた。

「大丈夫だ、弥生のせいじゃない」

「……うん」

「俺も一緒に探すから。そんなに心配するな。大丈夫だ、マオは賢いから危ない目になんてあってねぇよ」

「……うん」

 廉冶さんに話を聞いてもらい、さっきよりずいぶん冷静になった気がする。
 私と廉冶さんは二手に別れて、マオ君を探すことにした。

「じゃあ俺は、島の東から探して行くから」
「うん、じゃあ私は反対の方向から回ってみる!」

 この島は狭い。だけど、建物は入り組んでいて、細い坂道が間を縫うように繋がっているので、迷路のようでもある。

 マオ君、マオ君、どこにいるの。
 私は島の坂道を走りながら、近くを歩いている人たちに声をかけた。

「あの、すみません、マオ君見ませんでしたか!?」

 おじいさんは、のんびりした声で答える。

「あぁ、あんた成瀬先生のところの。どうかしたんか?」
「マオ君が、いなくなっちゃって……」
「おや、大変だねぇ。でも見てないなぁ。大丈夫、すぐに見つかるよ」
「ありがとうございます」

 何人かの人に声をかけていると、一人のおじいさんが坂の上を指さした。

「あっちに寂れた公園があるじゃろ。ちょっと前、あそこに向かって走って行くのが見えたぞ」
「ありがとうございます!」