しばらくハラハラしていたけれど、マオ君は楽しそうだし、園長先生にも一度帰ってはどうですかとすすめられたので、園の外へ出た。
家にいても落ち着かず、そわそわしているうちに、やがて降園の時間になった。
私はもう一度、園までマオ君を迎えに行く。
私が教室の側まで行くと、窓ガラス越しにこちらに気づいたマオ君は、にこりと微笑んだ。やっぱり笑うと天使のようにかわいらしい。
何とか今日は、他の子供に正体がバレずにすんだようだ。
園の子供たちは賑やかな様子で、教室の椅子に座っている。
門のところから、保護者がちらほらやって来るのが見えた。
どうやら迎えの親が到着し、先生に名前を呼ばれて引き渡された子から帰宅するみたいだ。
私は先生に挨拶し、マオ君に一緒に帰ろうと声をかける。
マオ君は先生に礼儀正しくお辞儀をする。
先生は優しくマオ君を見送ってくれる。
「また来てね、マオ君。今日は楽しかった?」
「はいっ、とっても楽しかったです!」
今日一日で人気者になったらしく、一緒に遊んだ子供たちがマオ君に手を振り、また遊ぼうねと声をかけてくれた。
私はほっとしてマオ君と手を繋いだ。
「お友達、たくさんできたね」
マオ君は満面の笑みを浮かべる。
「はいっ! みんなといっぱい遊びました! 幼稚園、また来たいです!」
よかった。危なっかしいところもあったし、心配だったけれど、最初は嫌がっていたマオ君がこんな風に笑ってくれるなら、来てよかった。
「廉冶さんに正式な手続きをしてもらえば、すぐに通えるようになるよ。お家で今日のことを話して、頼んでみよう」
「はいっ!」
園庭を歩いて園の外に出ようとすると、門の辺りで女の人が元気よく手を振っているのが見えた。
「おーい、弥生ちゃーん!」
「あ、喜代さんだ」
私たちは喜代さんの方へ歩いて行く。
「弥生ちゃん、今日体験入園だって言ってたものね! どうだった?」
「はい、悠人君もみんなも、仲良くしてくれて」
「そうなんだ、それはよかったわぁ!」
私と喜代さんが話していると、周囲に子供たちのお母さんらしき人たちが数人集まってくる。
「ねぇねぇ、喜代さん、もしかして、そちら成瀬先生のお嫁さん?」
「えぇ、そうよ」
喜代さんの言葉を聞き、周囲が騒がしくなる。
「あら、やっぱり! そうだと思ってたのよ!」
どうやら島の子供のお母さんたちも、私の存在が気になっていたらしい。
喜代さんが私を彼女たちに紹介してくれる。
「弥生ちゃんよ。優しくしてあげてね」
「どういうきっかけで成瀬先生と知り合ったの?」
「えぇと……」
いつの間にか、井戸端会議が始まってしまった。
こういう場はあまり得意じゃないけれど、私が話の中心になっている以上、抜けづらい空気だ。
軽く挨拶をして帰れないかなと思ったけれど、盛り上がったお母さんたちの話題はなかなか途切れない。
じっと待っていたマオ君はやがて退屈になったのか、私の手をするりと離し、園庭の端っこに歩いて行く。
不思議に思って彼の行き先を目で辿ると、ちょうちょがヒラヒラと飛んでいた。
マオ君、ちょうちょが気になるのかな。
まぁ園の中で少し遊ぶのなら、大丈夫だよね。でも、早く切り上げないと。
私は周囲の人にひたすら相槌をうっていた。
その時、信じられない物が目に入る。
マオは蝶に見とれたせいか、うっかりして猫の耳としっぽが出てしまっている。
マオ君っ!