私は幼稚園の廊下を歩いた。
幼稚園って、全部の物が小さくて可愛らしい。
靴箱の背も低いし、洗面台にある蛇口も小ぶりな気がする。
子供が少ないというのは本当らしく、教室もあまりなく、園自体がこぢんまりとした建物のようだ。
職員室の隣に、園長の部屋というプレートがあった。
私はその扉をノックする。
「はい」
扉の中から、澄んだ声音がかえってきた。
「あの、成瀬です。今日から体験入園させてもらうことになった」
そう話すと、中から扉が開かれる。
「はいはい、廉冶さんから話は聞いていますよ。ようこそようこそ、どうぞお入りください」
私はその男性の顔を見て面食らう。
園長先生というから、てっきりおじいちゃんかと思ったが、彼は想像よりもずっと若かった。
おそらく三十代半ばくらいだろうか。顔の輪郭はややほっそりとしていて、目尻はしゅっときれている。鼻筋もすらりと通り、整った顔立ちだった。
それと同時に、教育者らしくないな、なんて思ってしまう。
彼からは垢抜けた、都会的な雰囲気を感じた。
この島に染まっていない人だ。
私もつい最近ここに来たばかりなのに、何となくそんな印象を受ける。
「失礼します」
園長室に入った瞬間、部屋の空気が他の場所と違うような、肌がピリリとするような、違和感があった。
……何だっけ、この感じ。
困惑しながらどうぞと言われた椅子に座る。
てっきり園長先生も座るんだと思ったのに、彼が立ったままだから少し居心地が悪くなる。
園長先生は、私にお茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます」
「あなたが廉冶さんのお嫁さんの、弥生さんなんですね」
「は、はぁ」
いきなり名前を呼ばれて驚いていると、それが伝わったのか、彼は付け加えた。
「いえ、彼とは昔からの付き合いなんですよ。
だから、実はあなたの話は昔からよく聞いていて。勝手に知り合いのような気持ちになっていました」
私は少し緊張しながら答える。廉冶さんは、一体どんな話をこの人にしたのだろう。
「そうなんですか。私、最近廉冶さんと一緒に暮らし始めたばかりで、まだ実感はあまりないですが」
「なるほどなるほど」
園長先生は、目を細めてにっこりと微笑む。
こうやって見ると、スタイルのいい人だ。手足が長く、モデルのようでもある。
身長も廉冶さんと同じくらい高いけれど、柳の木のようにどこか頼りない。
「ここだけの話、実は私、狐のあやかしなんです」