私の朝は、近所の猫の鳴き声で始まる。
今日も窓の外から、にゃあにゃあと猫の声が聞こえた。
「あ、君は最近よく家に来ている子だね」
この島には何十匹、何百匹も猫が暮らしている。
最初は見分けなんてつかないだろうと思っていたけれど、不思議なもので、やはりよく会う子や近くで見かける子はなんとなく区別がつくようになってくる。
特に最近うちによく来てくれるのは、茶色い三毛猫だ。
そういえば、三毛猫のオスが生まれる確率は、三万匹に一匹程度で、非常に珍しいという話を思い出した。あれはどういう理由なのだろうか。
ぼんやり考えていると、三毛猫は媚びるような甘い声でエサをねだった。
「よしよし、今日のキャットフードはちょっといいやつだぞ」
エサ用のお皿に缶詰を開けると、三毛猫ははぐはぐとおいしそうにそれを食べる。
お腹がいっぱいになると満足したのか、ぴょんと塀の上に上がり、私のことなどすっかり忘れてしまったような、すました顔で歩いていく。
「ふふ、現金ですねぇ」
まぁそこが猫のかわいいところなんだけど。
この島には、ありとあらゆる場所に猫がいて、風景の一部のようになっている。
前住んでいた寮では動物を飼うことが禁止だったので、猫と好きな時にふれ合えるこの島はとても楽しい。
それに家にも、小さな猫さんがいるし。
私は台所に行くと、朝ご飯を作ることにした。
オムレツとサラダとスープにパンという、簡単なレシピだ。
だけどずっと寝起きが悪くて朝ご飯を食べる習慣のなかった私からすると、きちんと朝食を作っているだけで大きな進歩に思える。
廊下を歩きながら島を見下ろすと、今日も海は穏やかな色をしていた。
私はマオ君の部屋の襖をカラリと開いた。
「おはよう、マオ君」
「うーん……」
マオ君は布団の中でもぞもぞと寝返りをうつ。
「朝ご飯食べよう」
背中を揺らすと、猫耳がピクピク震えて、猫の尻尾がゆらゆらと揺れる。その仕草が愛らしい。
私と目が合ったマオ君は、はっとしたように猫耳と尻尾を仕舞った。
「お、おはようございます」
それからちょっと悔しそうな顔で、トテトテと洗面所に向かった。
マオ君は、気を抜いたり何かに集中していると、耳と尻尾が猫に戻ってしまう時がある。しかし廉冶さん曰く、あやかしとして半人前らしい。
マオ君は早く廉冶さんのように立派な人間になりたいので、尻尾や耳を人に見られることを屈辱だと感じているようだ。
別にかわいいからいいのにね。