「いい話だな。弥生のおじいさんには、俺も昔この島で会ったことがあるよ。もう亡くなってしまったんだよな」
「……うん」
「だけど、その人がいなくなっても、思い出はずっと残り続ける」
私はその言葉に笑顔で返事をした。
「うん! 私ね、実家を出てからずっと一人暮らしだったから、二人と一緒にご飯を食べられて嬉しいんだ」
「俺も二人と一緒にいられて嬉しいよ」
そう言った廉冶さんの笑顔は本当に綺麗で、思わず見とれてしまった。
廉冶さんもマオ君も、おいしそうに夕食を完食してくれた。
自分の気持ちが伝わったようでほっとしていると、食後のお茶を居間で飲みながらまったりしている廉冶さんに問いかけられた。マオ君は、隣でジュースを飲んでいる。
「ところで、悩んでたってどういうことだ? 弥生、何か悩んでたのか?」
「え、えっと……廉冶さん、私の料理、おいしくない?」
廉冶さんは寝耳に水という表情で答える。
「え、うまいけど……。俺、いつもおいしいって言ってなかったか?」
「うん、いつもそう言ってくれてるけど、何だかこう表情がかたいというか、本当かなって悩んじゃって。
私も料理に慣れていないし、失敗してるから、廉冶さんとマオ君、がっかりしてるのかなって」
それを聞いた廉冶さんは、その場で思いきり頭を下げた。
「悪い!」
「い、いや、そんな謝ってもらうことじゃ!」
廉冶さんは少し照れくさそうな様子で続けた。
「……多分、弥生と一緒にいられるのが嬉しすぎたから」
「え?」
「あんまりだらけきった顔してると、がっかりされるかと思って、かっこつけてたんだよ。……だから、表情がかたく見えたんじゃないか?」
予想外の理由に、私はポカンとしてしまう。
かっこつけてた? だから、少しぶっきらぼうに見えたの?
「でもそんなの言い訳にならないよな。不安にさせて悪かった」
それから廉冶さんは隣にいるマオ君を抱きかかえて言う。
「弥生の料理、美味しいよな。世界一うまいよなー、マオ」
「……はい、おいしいです」
マオ君は言おうかどうか迷ったように一瞬こちらをチラリと見て。
それから恥ずかしそうに顔を下げて小さな声で言った。
「僕、今度オムライスが食べたいです」
私は満面の笑みで返事をする。
「もちろん! じゃあ、明日はオムライスにするね!」
喜代さんの言葉を思い出し、本当だ、と喜びがあふれて来る。
「おいしい」っていうたった一言で、今までの悩みが全部吹き飛んじゃったみたい。