「料理?」
「はい。廉冶さんとマオ君に夕飯を作っているんですけれど、あんまり反応がないというか」

 私は頬をかきながら小さな声で付け加える。

「小さい悩みですよね」

 すると喜代さんは想像以上に共感してくれた。

「いやいや、主婦にとっては大問題よ!? 一生懸命作った料理、おいしいって言ってくれなきゃ腹がたつでしょ! あたしだったらぶっ飛ばしちゃう!」

 なんとなく、私の勝手な想像だけど、喜代さんの旦那さんは喜代さんの言うことに逆らえないんじゃないかなという印象を受けた。

「一応、おいしいとは言ってくれるんです。だけどなんかこう、暖簾に腕押しというか、手応えがないというか……」
「どうして毎日頑張って料理を作るのかって、大切な人においしいって言ってもらうためでしょう? 
もちろんそれだけじゃないけど、おいしいって言ってくれたら、よかった、またどんなに大変でも疲れていても、この人のためにまたおいしい物を作ろうって思うものじゃない」

 私はうんうんと頷いた。

「二人に喜んでもらう料理を作るには、どうしたらいいと思いますか?」

 喜代さんは少し考えた後、元気な声で言った。


「まずは自分が好きな料理を作ってみたら?」
「私の好きな料理……」

「うん! 自分の好きな物って、すすめたくなるじゃない?」

 そう言われて、一つ作ってみようと思う料理を思いついた。

「喜代さん、ありがとうございます。私、頑張れそうな気がしてきました」
「うんうん。何かあったら、あたしでよかったら相談してね」

 喜代さんは悪戯っぽい笑みで付け加える。

「だってこの島、娯楽が全然ないんだもの」
「娯楽……?」

 私がそう呟くと、喜代さんはおかしそうにカラカラと笑った。


 まだまだ二人のことは分からないことだらけだ。
 だけど二人のことを分かりたいなら、まずは自分のことを伝えてみよう。
 私の好きな物、感じたこと。
 きっと言葉にしないと、伝わらない。