私が廉冶さんの部屋を出て、昼ご飯を作っていると、とてててと小さな影が廊下を走っていった。

「あ、マオ君」

 名前を呼ぶと、彼はちらとこちらを振り返る。

 そしてまた、何も言わずに階段をのぼり、二階に上がっていってしまった。

 廉冶さんに聞きたいことは、たくさんある。
 聞かなきゃいけないと思っているのに、また聞けなかった。

 マオ君と、マオ君のお母さんのこと。

 廉冶さんと誰かの子供なのだろうか。
 母親はいない、と廉冶さんは言っていたけれど。

 その人は、どうなったのだろう。

 さっきの廉冶さんのことを思い出すと、恥ずかしくて顔が赤くなった。
 慣れてる様子だったし、廉冶さんは、遊び人なのだろうか……。

 廉冶さん、私を嫁になんて言っていたけど、他の女の人とも遊びまくって、色んなところに子供がいたりして、適当なことを言っているとか。

 そんな人じゃないって信じたいけれど、私は彼のことを何も知らない。
 大切なことだし、さらっと聞いてしまえばいいのに。

「はぁ……」

 大学生の時、彼氏に何股もされていたトラウマが蘇って、その場に座り込んでしまった。