彼は当然だというように答える。

「約束しただろう? 弥生は忘れていたのか? 迷惑だったか?」

 私はぷるぷると首を横に振った。

「ううん、ずっと覚えていたよ! だから、嬉しかった」

 廉冶さんのことを、待っていた。
 けれど思い出の小さな彼と、現在のかっこいい男性になった彼とのギャップに、戸惑ってしまう。

「廉冶さんが来てくれて、嬉しかったけど……」

 その言葉を聞いた彼は、私をぎゅっと抱き寄せた。

「ちょっ、廉冶さん!?」

 彼の腕に抱きすくめられて、動揺してしまう。

「そうか! 嬉しかったのか!」

 オーバーなリアクションに、目を白黒させてしまう。

「う、うん。あの、廉冶さん、近……」


 私はそのまますとんと畳の上に押し倒された。

「え!?」

 顎に手をかけられ、目の前に廉冶さんの顔が迫る。
 もしかして、キスされる?

 想像しただけで、頬がかっと熱くなった。

「ちょ、ちょっと待って!」

 言うことをちゃんと聞いてくれ、唇が触れる直前で彼はピタリと動きを止めた。

「どうして?」
「どうしてって、どうしても!」
「夫婦になったんだ」

 彼は不思議そうに私の手を取り、手の甲に軽く口づける。
 それだけで、恥ずかしくて顔から火が出そうになった。

「っ! ま、待ってってば!」

 混乱した私は起き上がり、廉冶さんの身体を押し返そうとした。

「ま、まだ朝だよ!」
「夜まで待てばいいのか?」
「そういうわけじゃなくて! だって、私たち、まだ会ったばっかりだし!」

 彼は妖しく微笑んだ。
 この笑顔を見ると、何でも受け入れてしまいそうになるから困る。

「とにかく、そういうことはまだ早くて!」

 確かに私は、ずっと廉冶さんに会いたかったんだと思う。
だけど、昔一緒に遊んだからと言って、それは子供の時の話だ。
今の廉冶さんは初対面みたいなもので、私は彼のことを全然知らない。

「じゅ、順序ってものがあるじゃない!」

 私は起き上がって、ぼそぼそと話す。

「あの、この前は、嫁になるかって言われて、つい返事をしちゃったけど」
「あぁ。まさか後悔してるのか?」
「いえ、そういうわけじゃないの。だけど私も、気が動転していて。分からないことばっかりだし」

「そうか。分かったよ、俺も焦りすぎていた。弥生をずいぶん待たせたしな。ゆっくりいくよ」

 そう言ってから、廉冶さんは私の手を取り、不敵に微笑む。

「どうせすぐに俺を好きになる」

 その笑い方があまりに彼に似合っていたので、言葉を失ってしまった。

「本っ当に自信家」

 そう言うと、廉冶さんはカラカラと笑った。