家に帰って三人で朝ご飯を食べた後、廉冶さんと私はなんとなく仕事部屋で話す流れになった。

「本当に、たくさん猫がいるんだね、この島。それにえさをねだるのがうまい」
「この島に来た人間あるあるだな。でも毎回猫の催促全部聞いてたら、家に帰る頃には全部食べられちまうぞ」
「うん、次回からは気を付ける」

 そう答えたものの、猫からの催促を断り切る自信もあんまりないのよね。
 廉冶さんは笑いながら筆を握り、細長い半紙にさらさらと難しい漢字を書き連ねる。

「廉冶さんは、お年寄りに人気なんだね」
「そうだな、年寄りに好かれてるかもな」
「どうして?」

「さあ? 年寄りは迷信とかが好きだからな。やっぱり肌で、俺がありがたーい存在だって分かるんじゃないか?」
「うーん、そうなの?」

 確かに廉冶さんは格好いいせいか、彼を取り巻くオーラのせいか、何もせずただ立っていても目立つというか、存在感がある。

 だからなのだろうか。納得しそうになった私に向かって、廉冶さんは付け加えた。

「あとたまに、習字教室とかもやってるからな。暇なじいさんばあさんはよく通ってる」
「なんだ、それでお世話になってるから私に優しかったのね」

 廉冶さんは、現在書道家として生活しているらしい。
 さっきスマホで調べてみたら、書道家の中ではかなり有名で、百年に一度の天才なんて言われているようだ。
 そっちの世界に疎い私は、全然知らなかった。 
「神様って、働くんだね」

 私は書道のことはよく分からないけれど、確かに廉冶さんの書いた文字は力強くて美しくて、自然と目を惹きつけられた。そういう意味では、彼の作品も彼自身によく似ているのかもしれない。

「まぁ、何もせずのらりくらりと過ごしてもよかったんだけどな。それだとつまらないだろう? 俺は神としてこの地を治めているだけでなく、書道家としても成功している。どうしてか分かるか?」
「字が上手だから?」

 廉冶さんは筆を硯に置き、キッパリと言い切った。
「違う。俺が天才だからだ」
「はぁ」

 すごい自信家……。
 書いた字の出来が気に入らなかったらしく、廉冶さんは半紙を畳んで、筆も置いた。

「俺に聞きたいことが色々あるだろう。何でも聞いたらいい」

「そうだな……廉冶さんは、どうして私を迎えに来たの?」