振り返ると、二匹の猫が物欲しそうにこちらを見ている。
 一匹は白い身体に黒縁、もう一匹は茶色の縞模様の猫だ。

「かわいいな。魚の匂いにつられたのかな」

 私は猫の側にしゃがむ。
 人に慣れているようで、逃げたり怖がったりする素振りは全くない。
 むしろ早くエサをよこせ! と催促するようににゃーんと鳴いた。

 猫が食べられそうな物は何だろう。
 貰った物の中に、マグロの刺身があったのを思い出す。

「じゃあ、あなたたちにもおすそわけね」

 そう言って刺身を数切れ分けようとして、廉冶さんにたずねる。

「あの、このお魚あげても大丈夫?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。この島の猫は、島の全員で飼ってるようなもんだから。好きにしたらいい。
本当は猫は別に魚が好物ってわけでもないはずだが、こいつらは島の人間に新鮮な魚を貰い慣れてるせいか、よく食べるよ」

 そうか、地域猫ってやつか。
 私が安心して地面に刺身を置くと、猫たちは嬉しそうにそれをはぐはぐと食べる。
 私から距離を取っていたマオ君も、猫たちを見てほんのり表情を緩めた。

「ふふ、かわいいねぇ」

 私は頬杖をつき、しばらく猫の食事を眺める。
 すると、近くからにゃあ、にゃああと複数の鳴き声が聞こえる。

「他にも猫がいるんだ……」

 はっとして周囲を見ると。
塀の上から、屋根の上から、木の陰から、十匹ほどの猫がこちらを見ていた。

「わっ! いっぱい!」
 猫たちはちょっとずつこちらに近づいてきて、じりじりと距離を詰める。
 みんなかわいいんだけど、たくさんいると迫力がある。

「れ、廉冶さん!」

 助けを求めるけれど、廉冶さんはおかしそうに笑っているばかりだ。

「もう、分かった、分かったから!」

 私は猫たちの催促に負け、結局大きな塊ごと持って行かれてしまった。
 猫たちはわっと一斉に飛びかかり、我先に刺身を食べようと群がった。
 私は圧倒されながらその様子を眺めていたのだった。