「大阪路地裏少年」
彼と知り合ったのは大阪のシンボル、銀色の通天閣の真下だ。
季節は六月上旬。梅雨のしつこい雨が止み、雲の切れ間から月が久々に覗いた夜のことだった。
私はバンドでギターボーカルをしていて、その日は通天閣近くのライブハウスに出演していた。
ライブはイマイチで、そういう日はアルコールも良くない回り方をする。梅雨の低気圧でただでさえ頭痛がする私の頭を、さらにガンガンと痛めつけただけだ。
この先の未来に漠然と不安を感じる。
私は六月中頃から東京に移り住むことになっていた。約二週間後だ。
東京でのライブオファーが増えてきたため、バンド活動をより活発に行うために上京するのだが、勿論東京で上手くいく確証などない。
終演後、私は共演者に軽い挨拶をして、早々にライブハウスを出た。防音のための重いドアが、自分が今抱えている憂鬱の重さを表しているようで、ドアノブを掴む手が少し震えた。
時刻は0時前。終電が刻一刻と迫る中、ギターを背負って商店街をぼんやりと歩く。
通称「新世界」と呼ばれるこの街は、その名前に見合った異様な空気を街全体が放っている。
通天閣の真下まで辿り着き、少し見惚れた。HITACHIという青いネオンが自分の顔を照らすのが分かる。ぼんやりと青い光に包まれていると、背後から「ねえ。」という男の人の声がした。
深夜のこの一帯は物騒だ。私は冷や汗を掻きながら、恐る恐る、ゆっくりと振り返る。
そこには、通天閣の入り口であぐらをかいて座り込む、二十歳ぐらいの男の子がいた。
首筋まで伸ばしている黒い髪が、汗で濡れて鬱陶しそうだ。前髪で目が隠れているが、前髪の隙間から覗いた目は細く、世界を睨んでいるようだった。
その目で、私を怪訝そうに見つめながら彼は言う。
「ねえ、大丈夫?夜中にこの辺一人でいると、危ないで。」
「あ、うん…でももう帰るので…」
彼は、君こそ大丈夫?と聞きたくなるような格好だ。
首元が破れているよれよれのTシャツが妙に似合っていて、裾から伸びるガリガリの白い腕が通天閣のライトに照らされている。
そしてその白い肌の至るところに青いアザがあった。
彼が少し不憫に思えたが、私はまだ警戒しながら、彼をジッと観察する。
そんな私を、彼は真っ直ぐに見据えて質問を投げかける。
「後ろ背負ってるの、ギター?」
「うん、私バンドしてて。今日ライブやったから。」
「俺のお母ちゃんもギターしてたなあ。君、なんかお母ちゃんに似てるわ。」
「君のお母さんに?私が似てるん?」
彼は私を真っ直ぐ見据えたまま、頷いた。
「うん。なんか、寂しそうな目。」
少し、ギクッとした。
彼と目を合わせると、全て見透かされてしまいそうな気がして、私は少し目を逸らしながら聴く。
「君のお母さんは、寂しそうやったん?」
「うん、お父ちゃんが、おらんくなったときの顔と似てた。」
私は言葉に詰まる。
固まる私を見て、彼はカラカラと笑った。
「ごめんごめん、こんな話して。俺んち大変やから、たまに家抜け出して、この辺でボーっとしてんねん。近くの新地の風俗街知ってる?俺、よく行くんよ。」
「あ…風俗好きなんや…」
私は少し怪訝な顔をして彼を見る。
「あ、違うって!俺、金ないから風俗利用できるわけちゃうよ。でも昔からやってる遊郭やから、風情があって。0時になったら営業終了やから、誰もおらん遊郭を見つめながら新地を歩く。」
私は俄然興味が沸いてくる。
「いいな。行ってみたい。でも女子一人やとなかなか行かれへん場所やなあ。」
彼は私の顔を黙って見つめる。うーんと首を捻らせてから、照れたように笑った。犬歯が彼の幼さを強調する。
「今0時やから、もし行くなら丁度いい時間やな。」
私はスマホで時間を確認した。日付はすでに変わっていて終電にはもう間に合わないだろう。
私は恋愛経験が乏しく、初対面の男の子のナンパになんて乗ったことなんて今までない。深夜なら尚更だ。
でも彼のボロボロのTシャツや、腕の青いアザ、そして笑ったときの犬歯を見てると、どうにも誘いを断れなかった。彼が、捨て犬みたいに思えたからだ。
「遊郭、見てみたい。」
それを聞くと、彼は悪戯っぽく笑い、通天閣の側に立てかけていた赤い自転車の鍵を開ける。
「これ、俺の愛車。後ろ乗って!」
私は彼のボロボロの赤い自転車の後ろにまたがった。
◇
新世界の物騒な街並みを、少しよろけながら自転車が走る。段差がある度に自転車が揺れる。
「危ないから掴んどき。」と彼が言うので、私は彼のヨレヨレのTシャツの裾をしっかりと握った。
二人分の重みに耐えているのか、ペダルがキイキイと音を立てる。私の胸が軋む音とリンクする。彼の背中は細く、肩甲骨が浮き出ているのがよく分かった。触れたらどんな硬さだろうと考えた瞬間、彼が振り返った。
「着いたよ。」
彼の背中を見ていた目線を街中に向けると、今まで見たことのない景色が広がっていた。
古き良き日本を感じさせる建築物がズラッと並び、花の名なんかが書かれた遊郭の看板が暖かく点灯している。
まるで映画の中に迷い込んだようなオリエンタルな空気に私は魅了されて、彼に意気揚々と話しかけた。
「綺麗やね。夜な夜な春が売られてる場所と思えないほど、幻想的。」
それを聞いて、彼も爛々とした目で答える。
「春が売られてるからこそ、幻想的なのかもなあ。俺、路地裏って好き。路地裏にはその街の魅力が反映されてる。表通りは世の中を分かりやすくするけど、路地裏には、覆い隠されてる真実が沢山ある。」
確かにそうかもしれない。
現に、私はこの路地裏の遊郭に、吹き荒れる夜桜を見たときのような、怪しくも切ないざわめきを感じて心を痛めている。
春を売る女の子たちと、東京に音楽を売りにいく自分を重ねる。遊郭の怪しい煌めきを見ていると、春を売ることも悪くないような、寧ろ美しいような気さえする。
ふと彼に視線を戻すと、彼の犬歯が、遊郭の看板に照らされていて綺麗だと思った。すると彼が大きくあくびをしたので、奥歯の銀歯までキラッと光る。
「眠くなってきた…。この近くに激安ホテルあって、1500円で泊まれるんやけど。終電ないなら、一緒に来る?…嫌ちゃうかったら。」
私は少し迷ったが、終電を逃した時点で覚悟はしていたことだ。意を決して、小さく頷いた。
私はまた彼の自転車の後ろにまたがる。夜の匂いが鼻を掠めて、彼の肩甲骨に触れてみたい衝動を掻き立てた。
◇
激安ホテルは、新今宮駅の近くだった。
ここだよ、と彼に言われたとき、私は着いてきたことを少し後悔した。
まるで廃墟ホテルのような質感だ。玄関の鏡は割れているし、破片はそのまま散らばっている。その鏡の破片に青色の天井が映し出されて、まるで空が落ちているようだった。
室内に入ると彼がよれよれのTシャツを脱いだ。
自転車の後ろで見つめていた肩甲骨がさらけ出される。
彼は照れ臭そうに笑った。
「自転車漕いだら、汗かいてもうたから。上は裸で寝るけど、気にせんとってな。」
「うん。大丈夫。」
部屋の真ん中にドーンと置かれた大きくて汚いベットに、彼が寝そべる。私も緊張しながら、同じベットに入り込む。
しかし彼は私に触れようとせず、私に背を向けるように体制を変えた。
私は、彼の背中にも青いアザがあることに気付く。彼は背を向けたまま呟いた。
「こんなとこ、着いてきてくれてありがとう。こんな汚い場所に女の子連れてきたらあかんな、ごめん。」
「大丈夫。私、実は二週間後に上京するねん。だから大阪のディープタウン最後に回れて、面白かった。」
彼は背を向けたまま、顔だけあげて、私の方を見る。
「東京、行くんか。俺、新世界の面白いとこ色々知ってるから、上京するまでにまた案内したる。」
「ほんまに?ありがと。楽しみにしてる。」
彼は私を見て少しだけ微笑む。そして顔をまた壁の方に向け、私に背中を向けたまま、あっさり寝息を立てて眠った。
◇
上京までの二週間、彼と私は約束通り、よく新世界を探索した。
待ち合わせは通天閣の入り口で。彼は身体にいつもアザを隠し持っていて、通天閣の青いライトがそれを暴くように照らす。
私たちは、夏休みの暇を持て余した中学生のように日々を過ごした。
新世界のボロいゲームセンターでポルノグッズのUFOキャッチャーをしたり。
古くから伝わる芝居小屋で、若い演者の胸元に札束を入れるマダムを観察したり。
公園に落ちていた雑誌を花火で燃やしていたら、そこに住んでいるホームレスにこっぴどく叱られたり。
その間も、彼は私に指一本触れようとせず、手も繋がなかった。そういうところまで、本当に中学生みたいだ。激安ホテルで同じベットで寝ても、少し温度を感じる距離になるだけで、それ以上のことはいつもなかった。
私はベットの中で、思わず、彼に尋ねた。
「なんで私とこんなに遊んでくれるん?」
「うーん…なんか、逃げてたいんかも。」
「何から逃げるん?」
彼は笑った。でもそれはいつものカラッとした笑い方とはどこか違った。いつも光り輝いてる犬歯が見えない、口を歪めるような笑い方だ。
「家帰るんが嫌やねん。でもボロホテルに一人やと、頭千切れそうになるから。一緒に寝てくれるの実はほんまに嬉しい。ホッとする。」
私は捨て犬を優しく拾い上げるような気持ちで、彼の頭を撫でた。そして地肌に引っかかりを感じた瞬間、痛っ、と彼が小さく叫ぶ。私は驚いた。
「なんかタンコブ、出来てるで。」
彼は少し押し黙った後、冗談っぽく話し始めた。
「兄と喧嘩してな、殴られてんなあ。タンコブって出来立ては柔らかいの、知ってる?」
彼が笑いながら茶化すので、私は少し怒った。
「なにそれ。そんなこと、知らんよ。普通知らんよ。」
「そんな、俺が普通じゃないみたいな言い方せんとってよ。」
私は、はっきりと言った。
「暴力は、普通じゃないよ。」
彼は少し俯いて黙り込む。そして顔を上げたと思ったら、弁護人のように必死に言葉を並べた。
「でもさ、兄ちゃんは良いとこもいっぱいあるねん。お父ちゃんが蒸発したときもさ、泣いてる俺を連れてお父ちゃんを一緒に探しに行ってくれた。葉っぱ吸いながら車運転してくれた。」
彼は暴力を奮う兄との思い出を、さも大切な、優しい思い出のように語る。
「結局お父ちゃんは東京で見つかった。東京で別の女と子ども育ててた。俺、お母ちゃんを寂しがらせたくないから、今は兄ちゃんと3人で暮らしてる。兄ちゃんが稼いでくれてるから、感謝してるよ。俺も肉体労働してるけど、大した額じゃないから。」
私は捨て犬を、助けたいと思った。
「ね、一緒に東京くる?お兄さんから離れたら?」
彼は無言になった。
押し黙って私を見る彼に、私は意を決して言った。
「私、君の春、買いたい。」
彼はきつく閉じていた口をゆっくりと開いて、ボソボソと話し始めた。
「俺は路地裏が好きやから。東京なんて、そんな都会で住むの想像できひん。それに俺がおらんくなったら、兄ちゃんは、お母ちゃんを殴るかもしれへん。だから俺はここに残る。」
「…そっか。」
沈黙が続いた。彼は私を睨む。
その目に涙が沢山溜まっているのを、私は見て見ぬフリをした。
◇
私が東京に行く前日のことだった。
いつもの通り通天閣で待ち合わせをしたのに、彼は来なかった。電話を何度も鳴らすが、出てくれない。
待ち合わせは22時だったが、1時間が経過しても連絡がない。
私は彼の青いアザを思い出す。嫌な予感が走る。
私は初めて会ったときの彼のように、通天閣の前でお行儀悪くあぐらをかいて、彼を待ったが、そのままあっという間に2時間が経過する。終電が迫る。
私は彼に約束を破られたことも、彼が電話に出てくれないこともどうでも良かった。ただ、あの青いアザが脳裏に何度も何度もよぎった。
私はそのまま終電を逃し、一人であのボロホテルに泊まることにした。汚いベットは一人で寝転ぶと広くて、彼の背中の青いアザを思い出した。
一度でいいから、触れてみれば良かった。一度でいいから、背中にしがみつけば良かった。
そう考えながらウトウトしていると、私のスマホが突然鳴り響き、私は瞬時に目覚めた。彼の風変わりな名前が表示されている。私は一目散に通話ボタンを押した。
彼の電話越しの声は震えていた。
「行けなくてごめん」
「…大丈夫?」
彼は泣きながら呟いた。
「警察から電話があって。兄ちゃん捕まったんだって。」
私は言葉が見つからない。ただ身体にヒンヤリと緊張感が走る。私が沈黙していると、彼が震える声で言った。
「会いたい。」
◇
電話を切ってから、10分も経たない内に彼はボロホテルに到着した。私は彼がこのホテルのこんなにも近くに住んでいることを初めて知った。
そして、こんなに家からホテルに頻繁に泊まりに来るほど、彼が家族と時間を共にしたくなかったことも。
同じベットに入り、いつも通り背を向けて、彼はポツポツと話し始める。
「兄ちゃんさ、通りすがりの人と揉めて、相手をボコボコにしたって。そんで、警察が事情聴取して、兄ちゃんの財布から葉っぱ出てきて、その件も合わせて捕まった。捕まったって聞いたときは、不思議な気持ちやった。あの人がまさか、とか思わない。やっと捕まったかって安心感。」
「うん…」
言葉が出てこず、曖昧な返事をすることしか出来ない。
「お母ちゃんと話してさ。お母ちゃんはこれからしばらく、彼氏と一緒に住むって。今日初めて会ったけど、俺のアザ見てすぐ救急病院連れて行ってくれたから、悪いやつじゃないかも。でも色々急すぎて。連絡できんかった。ごめん。」
私は何も言わずに初めて、彼の肩甲骨に触れた。それは想像以上に硬くて、簡単には砕けなさそうだ。彼は思っていたより強い子かもしれない。
私は彼のことなんて何も分かっていない自分が情けなくて、彼の背中にしがみついて泣いた。
彼は私に背を向けたまま掠れた声で呟く。
「二週間、ほんまにありがと。楽しかった。明日行っちゃうの?」
私は背中にしがみついたまま答える。
「うん。明日の夜行バスで行く。最後に、会えて良かった。」
彼の背中が少し震えて、彼も泣いていることが分かった。やっと触れたのに、嬉しさよりも切なさや苦しさが込み上げて、私は彼の背中の青いアザを涙で濡らしながら、そのまま眠ってしまった。
◇
朝起きると、彼はもう居なかった。
窓から心地よい陽の光が差し込んでくる。窓から外を見ると、通天閣が見えた。
夜はあんなに青く光り私を照らしていたのに、朝に見るとただの錆びた銀色の塊に思えて、なんだか滑稽だ。
私はボロホテルを出て、彼との思い出を反芻する。もしかしたら私と彼の関係も、時間が経てば滑稽に錆びついていくかもしれない。
私は最後の一日を自分の家族と過ごし、思い出話に花を咲かせた。両親と話していると、昨日の晩が嘘だったかのようだ。母の些細な気遣いや、父のくだらない冗談が、妙に暖かい。
あっという間に夜になり、私は最後の部屋の片付けをし、荷物をまとめ、父と母にありがとうを言い、ギターを背負った。私は夜行バス乗り場に向かった。
なんばのバス停から、通天閣の青い光が、空の色を青黒く染めているのが遠くに見える。
彼と初めて会った日を思い出す。もう彼の身体にはアザは出ないだろう。私は優しい気持ちになった。
さよなら、路地裏少年。どうかお元気で。
バスの中、私は疲れが溜まっていたのかすぐウトウトした。通路にズカズカと人が流れ込んでくるが、気にもならないほどに私の瞼は重たくなる。
しかし妨害が入った。ドン、という振動で目が覚める。私の感情が崩壊する音のように思えて少し焦ったが、違った。
後ろの人が私の椅子を蹴ったようだ。
しかも何度も何度も定期的にドンドンと蹴られるため、これは嫌がらせだと確信する。
バスの運転手さんに相談しようと席を立つ。そして振り返り、椅子を蹴っている人間を睨みつける。そして、呆気に取られた。
「…なんでいるの。」
見覚えのある青いアザをこしらえた男の子が、私を前髪の隙間から、細い目で見つめている。
「昨日、君が寝てる隙に君のスマホ勝手に見て。夜行バスの予約メールでバスの特定して。後ろの席予約した。他のメールはほんまに見てない。でも、ごめん。」
「…意味がわからん」
「で、今日、朝イチから上司に相談して。上司のコネで東京の仕事場紹介してもらった。俺も東京住む。」
「…意味がわからん」
「兄が捕まって良い機会だし。昨日初めて俺の背中触ってくれたとき、人って人をこんな風に触れるんや、って驚いたから。今まで殴られたことしかないから知らんかった。」
「…それは意味わかるかも。」
彼は細い目で私をじっと見て言った。
「だから一緒に住む。俺の春売りにきた。」
「…ありがとう。」
ハッと気がつくと、夜行バスの乗客全員が私たちを見つめていた。怪訝な顔で睨むおじさんもいれば、唖然とするお兄さん、笑っているカップル、目を潤ませて感動している女の子までいる。
私はそそくさと席にもう一度座り、恥ずかしさを隠すように目を瞑った。
彼がまた、座席を小さくトン、と蹴った。
私の、感情崩壊音。
夜行バスが新宿バス停に着き、私たちは歌舞伎町に降り立った。カラスがゴミを突いて、悪臭を放っている。
彼は辺りを見渡し、感嘆の声を漏らす。
「これが歌舞伎町か。なんか汚いなー。」
私はあることを思いつく。
「新世界にちょっと似てるね。」
彼は懐かしそうに笑った。
「たしかに、雑多な感じが似てるなあ。東京にも怪しい路地裏はあるんやね。あ、ボロいホテル発見。しかも安い。」
「移動で疲れたし、ホテルで寝ちゃおっか。」
ホテルの虹色の派手なアーケードをくぐり抜ける。大阪の激安スーパーを思い出すチープな質感だ。
私たちは路地裏で、これからも中学生のように過ごすだろう。私だけの、路地裏少年。
いつか彼のことを曲にしようと思いながら、私は彼の背中にしがみつき、汚いベットで眠りについた。
みるきーうぇい「大阪路地裏少年」Lyric Video
https://www.youtube.com/watch?v=mLcq_KciL8A&feature=youtu.be
ライナーノーツはこちらから↓↓
「大阪路地裏少年」
http://milkyway-music.com/?p=17379
【リリース情報 / Release Information】
発売日:2020/9/30(水)
商品タイトル:3rd mini AL「僕らの感情崩壊音」
収録曲:全6曲収録
価格・品番:1800円(税別)UMCK-1658
収録曲
M1: ドンガラガッシャンバーン
M2: 大阪路地裏少年
M3: 8/19(水) AM0:00解禁
M4: ???????
M5: ???????
M6: ???????
商品予約はこちらから↓↓
UNIVERSAL MUSIC STORE
https://store.universal-music.co.jp/product/umck1658/
【DOWNLOAD / STREAMING】
https://milkyway.lnk.to/Osaka_Rojiurashonen
【みるきーうぇいプロフィール】
#アッパー系メンヘラ、伊集院香織による
一人バンドプロジェクト「みるきーうぇい」。
本人の実体験から生み出される痛々しい魂の叫びが同じような経験のある若い世代を中心に絶大な支持を受けている。
自身が体験した”いじめ”を題材にしたMV「カセットテープとカッターナイフ」が
SNSを通じて紹介したことも起因し、大きな話題を呼ぶ。
2016年、1st single『カセットテープとカッターナイフ』を前代未聞のCDではなくカセットテープで初全国流通。
インディーズウィークリーランキング第5位となり、完全自主レーベルのインディーズバンドにして快挙の数字を叩き出す。
2019年には自身の楽曲をモチーフに、半自伝小説「放課後爆音少女」を執筆。
伊集院香織名義にて、小説投稿サイト「LINEノベル」に投下すると、月間ランキングにて1位を獲得。
自身でショートストーリーを描き、それに主題歌を付け発信する
新しい“音楽と小説の融合”を生み出すアーティスト。
・オフィシャルHP
http://milkyway-music.com/
・Twitter
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彼と知り合ったのは大阪のシンボル、銀色の通天閣の真下だ。
季節は六月上旬。梅雨のしつこい雨が止み、雲の切れ間から月が久々に覗いた夜のことだった。
私はバンドでギターボーカルをしていて、その日は通天閣近くのライブハウスに出演していた。
ライブはイマイチで、そういう日はアルコールも良くない回り方をする。梅雨の低気圧でただでさえ頭痛がする私の頭を、さらにガンガンと痛めつけただけだ。
この先の未来に漠然と不安を感じる。
私は六月中頃から東京に移り住むことになっていた。約二週間後だ。
東京でのライブオファーが増えてきたため、バンド活動をより活発に行うために上京するのだが、勿論東京で上手くいく確証などない。
終演後、私は共演者に軽い挨拶をして、早々にライブハウスを出た。防音のための重いドアが、自分が今抱えている憂鬱の重さを表しているようで、ドアノブを掴む手が少し震えた。
時刻は0時前。終電が刻一刻と迫る中、ギターを背負って商店街をぼんやりと歩く。
通称「新世界」と呼ばれるこの街は、その名前に見合った異様な空気を街全体が放っている。
通天閣の真下まで辿り着き、少し見惚れた。HITACHIという青いネオンが自分の顔を照らすのが分かる。ぼんやりと青い光に包まれていると、背後から「ねえ。」という男の人の声がした。
深夜のこの一帯は物騒だ。私は冷や汗を掻きながら、恐る恐る、ゆっくりと振り返る。
そこには、通天閣の入り口であぐらをかいて座り込む、二十歳ぐらいの男の子がいた。
首筋まで伸ばしている黒い髪が、汗で濡れて鬱陶しそうだ。前髪で目が隠れているが、前髪の隙間から覗いた目は細く、世界を睨んでいるようだった。
その目で、私を怪訝そうに見つめながら彼は言う。
「ねえ、大丈夫?夜中にこの辺一人でいると、危ないで。」
「あ、うん…でももう帰るので…」
彼は、君こそ大丈夫?と聞きたくなるような格好だ。
首元が破れているよれよれのTシャツが妙に似合っていて、裾から伸びるガリガリの白い腕が通天閣のライトに照らされている。
そしてその白い肌の至るところに青いアザがあった。
彼が少し不憫に思えたが、私はまだ警戒しながら、彼をジッと観察する。
そんな私を、彼は真っ直ぐに見据えて質問を投げかける。
「後ろ背負ってるの、ギター?」
「うん、私バンドしてて。今日ライブやったから。」
「俺のお母ちゃんもギターしてたなあ。君、なんかお母ちゃんに似てるわ。」
「君のお母さんに?私が似てるん?」
彼は私を真っ直ぐ見据えたまま、頷いた。
「うん。なんか、寂しそうな目。」
少し、ギクッとした。
彼と目を合わせると、全て見透かされてしまいそうな気がして、私は少し目を逸らしながら聴く。
「君のお母さんは、寂しそうやったん?」
「うん、お父ちゃんが、おらんくなったときの顔と似てた。」
私は言葉に詰まる。
固まる私を見て、彼はカラカラと笑った。
「ごめんごめん、こんな話して。俺んち大変やから、たまに家抜け出して、この辺でボーっとしてんねん。近くの新地の風俗街知ってる?俺、よく行くんよ。」
「あ…風俗好きなんや…」
私は少し怪訝な顔をして彼を見る。
「あ、違うって!俺、金ないから風俗利用できるわけちゃうよ。でも昔からやってる遊郭やから、風情があって。0時になったら営業終了やから、誰もおらん遊郭を見つめながら新地を歩く。」
私は俄然興味が沸いてくる。
「いいな。行ってみたい。でも女子一人やとなかなか行かれへん場所やなあ。」
彼は私の顔を黙って見つめる。うーんと首を捻らせてから、照れたように笑った。犬歯が彼の幼さを強調する。
「今0時やから、もし行くなら丁度いい時間やな。」
私はスマホで時間を確認した。日付はすでに変わっていて終電にはもう間に合わないだろう。
私は恋愛経験が乏しく、初対面の男の子のナンパになんて乗ったことなんて今までない。深夜なら尚更だ。
でも彼のボロボロのTシャツや、腕の青いアザ、そして笑ったときの犬歯を見てると、どうにも誘いを断れなかった。彼が、捨て犬みたいに思えたからだ。
「遊郭、見てみたい。」
それを聞くと、彼は悪戯っぽく笑い、通天閣の側に立てかけていた赤い自転車の鍵を開ける。
「これ、俺の愛車。後ろ乗って!」
私は彼のボロボロの赤い自転車の後ろにまたがった。
◇
新世界の物騒な街並みを、少しよろけながら自転車が走る。段差がある度に自転車が揺れる。
「危ないから掴んどき。」と彼が言うので、私は彼のヨレヨレのTシャツの裾をしっかりと握った。
二人分の重みに耐えているのか、ペダルがキイキイと音を立てる。私の胸が軋む音とリンクする。彼の背中は細く、肩甲骨が浮き出ているのがよく分かった。触れたらどんな硬さだろうと考えた瞬間、彼が振り返った。
「着いたよ。」
彼の背中を見ていた目線を街中に向けると、今まで見たことのない景色が広がっていた。
古き良き日本を感じさせる建築物がズラッと並び、花の名なんかが書かれた遊郭の看板が暖かく点灯している。
まるで映画の中に迷い込んだようなオリエンタルな空気に私は魅了されて、彼に意気揚々と話しかけた。
「綺麗やね。夜な夜な春が売られてる場所と思えないほど、幻想的。」
それを聞いて、彼も爛々とした目で答える。
「春が売られてるからこそ、幻想的なのかもなあ。俺、路地裏って好き。路地裏にはその街の魅力が反映されてる。表通りは世の中を分かりやすくするけど、路地裏には、覆い隠されてる真実が沢山ある。」
確かにそうかもしれない。
現に、私はこの路地裏の遊郭に、吹き荒れる夜桜を見たときのような、怪しくも切ないざわめきを感じて心を痛めている。
春を売る女の子たちと、東京に音楽を売りにいく自分を重ねる。遊郭の怪しい煌めきを見ていると、春を売ることも悪くないような、寧ろ美しいような気さえする。
ふと彼に視線を戻すと、彼の犬歯が、遊郭の看板に照らされていて綺麗だと思った。すると彼が大きくあくびをしたので、奥歯の銀歯までキラッと光る。
「眠くなってきた…。この近くに激安ホテルあって、1500円で泊まれるんやけど。終電ないなら、一緒に来る?…嫌ちゃうかったら。」
私は少し迷ったが、終電を逃した時点で覚悟はしていたことだ。意を決して、小さく頷いた。
私はまた彼の自転車の後ろにまたがる。夜の匂いが鼻を掠めて、彼の肩甲骨に触れてみたい衝動を掻き立てた。
◇
激安ホテルは、新今宮駅の近くだった。
ここだよ、と彼に言われたとき、私は着いてきたことを少し後悔した。
まるで廃墟ホテルのような質感だ。玄関の鏡は割れているし、破片はそのまま散らばっている。その鏡の破片に青色の天井が映し出されて、まるで空が落ちているようだった。
室内に入ると彼がよれよれのTシャツを脱いだ。
自転車の後ろで見つめていた肩甲骨がさらけ出される。
彼は照れ臭そうに笑った。
「自転車漕いだら、汗かいてもうたから。上は裸で寝るけど、気にせんとってな。」
「うん。大丈夫。」
部屋の真ん中にドーンと置かれた大きくて汚いベットに、彼が寝そべる。私も緊張しながら、同じベットに入り込む。
しかし彼は私に触れようとせず、私に背を向けるように体制を変えた。
私は、彼の背中にも青いアザがあることに気付く。彼は背を向けたまま呟いた。
「こんなとこ、着いてきてくれてありがとう。こんな汚い場所に女の子連れてきたらあかんな、ごめん。」
「大丈夫。私、実は二週間後に上京するねん。だから大阪のディープタウン最後に回れて、面白かった。」
彼は背を向けたまま、顔だけあげて、私の方を見る。
「東京、行くんか。俺、新世界の面白いとこ色々知ってるから、上京するまでにまた案内したる。」
「ほんまに?ありがと。楽しみにしてる。」
彼は私を見て少しだけ微笑む。そして顔をまた壁の方に向け、私に背中を向けたまま、あっさり寝息を立てて眠った。
◇
上京までの二週間、彼と私は約束通り、よく新世界を探索した。
待ち合わせは通天閣の入り口で。彼は身体にいつもアザを隠し持っていて、通天閣の青いライトがそれを暴くように照らす。
私たちは、夏休みの暇を持て余した中学生のように日々を過ごした。
新世界のボロいゲームセンターでポルノグッズのUFOキャッチャーをしたり。
古くから伝わる芝居小屋で、若い演者の胸元に札束を入れるマダムを観察したり。
公園に落ちていた雑誌を花火で燃やしていたら、そこに住んでいるホームレスにこっぴどく叱られたり。
その間も、彼は私に指一本触れようとせず、手も繋がなかった。そういうところまで、本当に中学生みたいだ。激安ホテルで同じベットで寝ても、少し温度を感じる距離になるだけで、それ以上のことはいつもなかった。
私はベットの中で、思わず、彼に尋ねた。
「なんで私とこんなに遊んでくれるん?」
「うーん…なんか、逃げてたいんかも。」
「何から逃げるん?」
彼は笑った。でもそれはいつものカラッとした笑い方とはどこか違った。いつも光り輝いてる犬歯が見えない、口を歪めるような笑い方だ。
「家帰るんが嫌やねん。でもボロホテルに一人やと、頭千切れそうになるから。一緒に寝てくれるの実はほんまに嬉しい。ホッとする。」
私は捨て犬を優しく拾い上げるような気持ちで、彼の頭を撫でた。そして地肌に引っかかりを感じた瞬間、痛っ、と彼が小さく叫ぶ。私は驚いた。
「なんかタンコブ、出来てるで。」
彼は少し押し黙った後、冗談っぽく話し始めた。
「兄と喧嘩してな、殴られてんなあ。タンコブって出来立ては柔らかいの、知ってる?」
彼が笑いながら茶化すので、私は少し怒った。
「なにそれ。そんなこと、知らんよ。普通知らんよ。」
「そんな、俺が普通じゃないみたいな言い方せんとってよ。」
私は、はっきりと言った。
「暴力は、普通じゃないよ。」
彼は少し俯いて黙り込む。そして顔を上げたと思ったら、弁護人のように必死に言葉を並べた。
「でもさ、兄ちゃんは良いとこもいっぱいあるねん。お父ちゃんが蒸発したときもさ、泣いてる俺を連れてお父ちゃんを一緒に探しに行ってくれた。葉っぱ吸いながら車運転してくれた。」
彼は暴力を奮う兄との思い出を、さも大切な、優しい思い出のように語る。
「結局お父ちゃんは東京で見つかった。東京で別の女と子ども育ててた。俺、お母ちゃんを寂しがらせたくないから、今は兄ちゃんと3人で暮らしてる。兄ちゃんが稼いでくれてるから、感謝してるよ。俺も肉体労働してるけど、大した額じゃないから。」
私は捨て犬を、助けたいと思った。
「ね、一緒に東京くる?お兄さんから離れたら?」
彼は無言になった。
押し黙って私を見る彼に、私は意を決して言った。
「私、君の春、買いたい。」
彼はきつく閉じていた口をゆっくりと開いて、ボソボソと話し始めた。
「俺は路地裏が好きやから。東京なんて、そんな都会で住むの想像できひん。それに俺がおらんくなったら、兄ちゃんは、お母ちゃんを殴るかもしれへん。だから俺はここに残る。」
「…そっか。」
沈黙が続いた。彼は私を睨む。
その目に涙が沢山溜まっているのを、私は見て見ぬフリをした。
◇
私が東京に行く前日のことだった。
いつもの通り通天閣で待ち合わせをしたのに、彼は来なかった。電話を何度も鳴らすが、出てくれない。
待ち合わせは22時だったが、1時間が経過しても連絡がない。
私は彼の青いアザを思い出す。嫌な予感が走る。
私は初めて会ったときの彼のように、通天閣の前でお行儀悪くあぐらをかいて、彼を待ったが、そのままあっという間に2時間が経過する。終電が迫る。
私は彼に約束を破られたことも、彼が電話に出てくれないこともどうでも良かった。ただ、あの青いアザが脳裏に何度も何度もよぎった。
私はそのまま終電を逃し、一人であのボロホテルに泊まることにした。汚いベットは一人で寝転ぶと広くて、彼の背中の青いアザを思い出した。
一度でいいから、触れてみれば良かった。一度でいいから、背中にしがみつけば良かった。
そう考えながらウトウトしていると、私のスマホが突然鳴り響き、私は瞬時に目覚めた。彼の風変わりな名前が表示されている。私は一目散に通話ボタンを押した。
彼の電話越しの声は震えていた。
「行けなくてごめん」
「…大丈夫?」
彼は泣きながら呟いた。
「警察から電話があって。兄ちゃん捕まったんだって。」
私は言葉が見つからない。ただ身体にヒンヤリと緊張感が走る。私が沈黙していると、彼が震える声で言った。
「会いたい。」
◇
電話を切ってから、10分も経たない内に彼はボロホテルに到着した。私は彼がこのホテルのこんなにも近くに住んでいることを初めて知った。
そして、こんなに家からホテルに頻繁に泊まりに来るほど、彼が家族と時間を共にしたくなかったことも。
同じベットに入り、いつも通り背を向けて、彼はポツポツと話し始める。
「兄ちゃんさ、通りすがりの人と揉めて、相手をボコボコにしたって。そんで、警察が事情聴取して、兄ちゃんの財布から葉っぱ出てきて、その件も合わせて捕まった。捕まったって聞いたときは、不思議な気持ちやった。あの人がまさか、とか思わない。やっと捕まったかって安心感。」
「うん…」
言葉が出てこず、曖昧な返事をすることしか出来ない。
「お母ちゃんと話してさ。お母ちゃんはこれからしばらく、彼氏と一緒に住むって。今日初めて会ったけど、俺のアザ見てすぐ救急病院連れて行ってくれたから、悪いやつじゃないかも。でも色々急すぎて。連絡できんかった。ごめん。」
私は何も言わずに初めて、彼の肩甲骨に触れた。それは想像以上に硬くて、簡単には砕けなさそうだ。彼は思っていたより強い子かもしれない。
私は彼のことなんて何も分かっていない自分が情けなくて、彼の背中にしがみついて泣いた。
彼は私に背を向けたまま掠れた声で呟く。
「二週間、ほんまにありがと。楽しかった。明日行っちゃうの?」
私は背中にしがみついたまま答える。
「うん。明日の夜行バスで行く。最後に、会えて良かった。」
彼の背中が少し震えて、彼も泣いていることが分かった。やっと触れたのに、嬉しさよりも切なさや苦しさが込み上げて、私は彼の背中の青いアザを涙で濡らしながら、そのまま眠ってしまった。
◇
朝起きると、彼はもう居なかった。
窓から心地よい陽の光が差し込んでくる。窓から外を見ると、通天閣が見えた。
夜はあんなに青く光り私を照らしていたのに、朝に見るとただの錆びた銀色の塊に思えて、なんだか滑稽だ。
私はボロホテルを出て、彼との思い出を反芻する。もしかしたら私と彼の関係も、時間が経てば滑稽に錆びついていくかもしれない。
私は最後の一日を自分の家族と過ごし、思い出話に花を咲かせた。両親と話していると、昨日の晩が嘘だったかのようだ。母の些細な気遣いや、父のくだらない冗談が、妙に暖かい。
あっという間に夜になり、私は最後の部屋の片付けをし、荷物をまとめ、父と母にありがとうを言い、ギターを背負った。私は夜行バス乗り場に向かった。
なんばのバス停から、通天閣の青い光が、空の色を青黒く染めているのが遠くに見える。
彼と初めて会った日を思い出す。もう彼の身体にはアザは出ないだろう。私は優しい気持ちになった。
さよなら、路地裏少年。どうかお元気で。
バスの中、私は疲れが溜まっていたのかすぐウトウトした。通路にズカズカと人が流れ込んでくるが、気にもならないほどに私の瞼は重たくなる。
しかし妨害が入った。ドン、という振動で目が覚める。私の感情が崩壊する音のように思えて少し焦ったが、違った。
後ろの人が私の椅子を蹴ったようだ。
しかも何度も何度も定期的にドンドンと蹴られるため、これは嫌がらせだと確信する。
バスの運転手さんに相談しようと席を立つ。そして振り返り、椅子を蹴っている人間を睨みつける。そして、呆気に取られた。
「…なんでいるの。」
見覚えのある青いアザをこしらえた男の子が、私を前髪の隙間から、細い目で見つめている。
「昨日、君が寝てる隙に君のスマホ勝手に見て。夜行バスの予約メールでバスの特定して。後ろの席予約した。他のメールはほんまに見てない。でも、ごめん。」
「…意味がわからん」
「で、今日、朝イチから上司に相談して。上司のコネで東京の仕事場紹介してもらった。俺も東京住む。」
「…意味がわからん」
「兄が捕まって良い機会だし。昨日初めて俺の背中触ってくれたとき、人って人をこんな風に触れるんや、って驚いたから。今まで殴られたことしかないから知らんかった。」
「…それは意味わかるかも。」
彼は細い目で私をじっと見て言った。
「だから一緒に住む。俺の春売りにきた。」
「…ありがとう。」
ハッと気がつくと、夜行バスの乗客全員が私たちを見つめていた。怪訝な顔で睨むおじさんもいれば、唖然とするお兄さん、笑っているカップル、目を潤ませて感動している女の子までいる。
私はそそくさと席にもう一度座り、恥ずかしさを隠すように目を瞑った。
彼がまた、座席を小さくトン、と蹴った。
私の、感情崩壊音。
夜行バスが新宿バス停に着き、私たちは歌舞伎町に降り立った。カラスがゴミを突いて、悪臭を放っている。
彼は辺りを見渡し、感嘆の声を漏らす。
「これが歌舞伎町か。なんか汚いなー。」
私はあることを思いつく。
「新世界にちょっと似てるね。」
彼は懐かしそうに笑った。
「たしかに、雑多な感じが似てるなあ。東京にも怪しい路地裏はあるんやね。あ、ボロいホテル発見。しかも安い。」
「移動で疲れたし、ホテルで寝ちゃおっか。」
ホテルの虹色の派手なアーケードをくぐり抜ける。大阪の激安スーパーを思い出すチープな質感だ。
私たちは路地裏で、これからも中学生のように過ごすだろう。私だけの、路地裏少年。
いつか彼のことを曲にしようと思いながら、私は彼の背中にしがみつき、汚いベットで眠りについた。
みるきーうぇい「大阪路地裏少年」Lyric Video
https://www.youtube.com/watch?v=mLcq_KciL8A&feature=youtu.be
ライナーノーツはこちらから↓↓
「大阪路地裏少年」
http://milkyway-music.com/?p=17379
【リリース情報 / Release Information】
発売日:2020/9/30(水)
商品タイトル:3rd mini AL「僕らの感情崩壊音」
収録曲:全6曲収録
価格・品番:1800円(税別)UMCK-1658
収録曲
M1: ドンガラガッシャンバーン
M2: 大阪路地裏少年
M3: 8/19(水) AM0:00解禁
M4: ???????
M5: ???????
M6: ???????
商品予約はこちらから↓↓
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【みるきーうぇいプロフィール】
#アッパー系メンヘラ、伊集院香織による
一人バンドプロジェクト「みるきーうぇい」。
本人の実体験から生み出される痛々しい魂の叫びが同じような経験のある若い世代を中心に絶大な支持を受けている。
自身が体験した”いじめ”を題材にしたMV「カセットテープとカッターナイフ」が
SNSを通じて紹介したことも起因し、大きな話題を呼ぶ。
2016年、1st single『カセットテープとカッターナイフ』を前代未聞のCDではなくカセットテープで初全国流通。
インディーズウィークリーランキング第5位となり、完全自主レーベルのインディーズバンドにして快挙の数字を叩き出す。
2019年には自身の楽曲をモチーフに、半自伝小説「放課後爆音少女」を執筆。
伊集院香織名義にて、小説投稿サイト「LINEノベル」に投下すると、月間ランキングにて1位を獲得。
自身でショートストーリーを描き、それに主題歌を付け発信する
新しい“音楽と小説の融合”を生み出すアーティスト。
・オフィシャルHP
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