……ちょっと待った。

プチッと錠剤のシートから薬を取り出した私の手が止まった。今回の分の他に一回分、すでに空になっている。記憶にかかっていた霞がふわふわと揺れて昨夜の一番肝心な部分の情景が少しずつ浮かび上がってきた。

これを飲んだ時、私はたしか寝たままで。
薬は嫌いだと言ったら彼が無理やり押し込んできて。
で、水も飲まなきゃ食道がどうだとか彼が言って、私が拒否して。

〝無理やり流し込みますよ。いいですね?〟

「……どうやって?」

〝ちゃんと意味わかってるんですか〟

それで鼻をつままれて口を開けたら──。
私の手から錠剤のシートがポトリと落ちた。


二十八歳干物女、男性経験ゼロ。
初めてのキスはドラマのようにはいかない。


……って、あれはキスなのか?