"毎度毎度"その好盛の言葉のとおり、最近、悟は好盛を(うち)に連れ込んでいた。もちろん合意の上である。"毎度毎度"というが毎日というわけではない。過保護な両親からようやく解放されて遠出の許可が出たいま、好盛と取材先についての打ち合わせなどを行う必要があったのである。まぁ、ほとんどが打ち合わせという名目の雑談であるのだが……。

「ネズミが駄目だったんなら、他はどうなんだ? 他のやつにも聞かなかったのか?」
「学校から(うち)まで二時間半だよ。しかも、いまは冬だしすぐに日も暮れる。動物一匹見つけて追いかけて声をかけるのも人間の俺じゃあ一苦労(ひとくろう)だ。そこでだよ、好盛くんき──」

なかなか取材先の見つからない悟は、とても良いことを思いついたとキリッとした顔をして、烏に視線を移す。
しかし、悟が何を言おうとしているのかすぐに察した烏は悟が最後まで言うのを待たずに(せい)した。

「いやだね。烏は他の動物(連中)から良いイメージ持たれることなんてあまりない。そもそも、この世は弱肉強食だぜ? 皆んなというかお互い、牽制(けんせい)し合って生きている。同じ種属間で仲良くすることはあっても他の種属とってことはない。そもそも、そうすることに必要性を感じていないからしねぇんだよ」

悟は大きなため息を()いて胡座(あぐら)をかくと、その上に肘をのせて頬杖をついた。

「何かいい方法があればなぁ……」

来週になれば冬休みに入ってしまう。悟たちの計画としては、冬休みまでになんとか取材先を見つけて冬休みに入ってすぐに取材を(おこな)う予定であったのだ。悟の両親も最近は段々と過保護さが薄れてきており、多少、夜間の外出も許可してくれることだろう。

長期間の休みを利用すれば、早朝に活動する動物や夜間に活動する動物の取材が満足に(おこな)える。
だが、それは取材先が見つかればの話である。取材先が見つかってない今、悟たちは実行に移すことができない。

「悟ー! お風呂ー!」
「はーい」

階段下から悟を呼ぶ母の声が二階まで響く。

「じゃあな、悟」
「うん、また明日。好盛」

悟が内窓を開けて外窓に手をかければ、冷気を()びた窓と悟の体温で窓を白く染め、結露(けつろ)が出現する。先ほどまで外に出ていたせいか悟は平然とした様子で窓に両手で触れて開けた。開けた窓から好盛が大きく翼を広げて飛んで行くのを見届けると、悟は窓を閉めて自室を出て行った。


こうして解決策が見つかることもなく、きょうという日を終えるのであった。