「誰だって漫画家と名乗れば漫画家ですからね!」
今日も奴の甲高い声が部室に響き渡る。ここは都内にある某高校、漫画研究部の部室である。メンバー全員、ジャンルは違えど、プロの漫画家志望だ。その中で、とりわけ一人だけ、ニヤニヤしながら饒舌に語り出す男が、我が部長の武下実である。武下は、中学の頃に某少年漫画の雑誌で受賞し、今や連載を任せられているプロ漫画家なのである。
バシーン!武下が力強く黒板を叩き、こう言った。「いいですか、漫画というのは、絵が多少下手でも、ストーリーがうまければ採用される場合がある、なので皆さん、ストーリーの勉強にも力を入れてくださいね!まあ、皆さんでは、画力上げるだけでも精一杯でしょうが・・・」
カチーンときた俺らだが、武下には言い返せない。武下の元で働くアシスタントが次から次へとデビューし、どうやら担当から、アシスタントの指導も任せられているみたいなのだ。なので、もしかしたら、武下に従えば俺らもデビューできるのでは・・・と思い、逆らえないのだ。
「ああ、今日も武下ウザかったねー。」
昼休み、学校の屋上で、武下を除いた部員全員で、昼食を食べながら愚痴り出した。毎日の日課だ。フワッと吹く風が、かえって俺らの心を湿らせた。春というのは、もっとワクワクするもんだと思ってたのに、現実はそうもいかない。俺、川崎守は、漫画家を志し、中2から投稿し出して、一度も受賞することなく、高2になった。俺が入学した高校は、小学校からのエスカレーター式で、もう、みんな小学校からの知り合いで、春にクラス替えがあろうが、もう大半は喋ったことのある奴らばかりで、特に新鮮さも感じず、精一杯描いた漫画も受賞せず、俺はつまらない日々を送っていた。来年は受験だし、その間まで漫画を描くつもりだが、なんだか俺の心は冷めていた。
「川崎君は、どんな漫画が好き?」
おっと、忘れていた。1つだけ、俺らの心を熱くさせるものがあった。
「えっと、バトルファンタジーだよ、王道の」
俺は照れながら答えた。
「わあ、素敵!私も好きなの、王道、今は廃れてるけど、全力で戦ってます感が伝わって好き!」
部員の中で、一番の清らかな心と外見を持ち合わせた、白川みきと会話する時、俺の鼓動はドクドクと高鳴る。白川とも同じ小、中、高の学生生活を過ごしてきて、なんというか、いつからか、俺は淡い恋心を抱くようになった。長髪の黒髪を束ね、パッチリした目、成績優秀、生徒会役員もこなし、弱き者を助ける、なにより、描く漫画も面白い、まあパーフェクトの女の子なのだ。白川には、彼氏っているんだろうか、好きな奴とかいるんだろうか、俺は怖くて聞けない。