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 そこは、月の満ち欠けのみが時を告げる、常夜の国。
 またの名を、陽炎(かげろう)という。

 太陽の女神・天照大御神が統べる現世と対極に存在する、月の神・月讀命(つくよみのみこと)が統べる国だ。

「消え()魂鎮(たましず)めは白銀(しろがね)の――……」

 ふいに、思わず聞かずにはいられないほど耳に心地いい青年の声が、(きら)めくような蒼の空間に響いた。

 満天の星のもとに煌々と輝くのは、気高き白銀の満月。

 紺色の夜の空の下でも、目にも鮮やかな色彩の紅が地平線の彼方まで敷き詰められていて、寄せ集められたそれぞれが風に吹かれ、ゆらゆらと、それは優雅に舞い踊って見えた。

 一際強い風が吹くと、紅いひらひらとした小さな何かが、ふわりと無数に舞い上がる。

 それは形は小さくても、とても色鮮やかな花びらだ。