危機感を募らせた大人達は、長雨とこれから起こるであろう災害を食い止めるため、水の神に生け贄を差し出すことを決めた。

 そう。
 それが、今ここにいる二人なのだ。

 選ばれた理由など、至極単純。

 二人は、生まれを忌み嫌われる双子だったから。

 両親からも疎まれ、里の者達にも疎まれる。

 居場所など、どこにもなかった。

 今回の決定は、二人の厄介者払いだ。

 だからなのだろう、見送る者など誰一人としてない。

 ここに二人して引き摺られて捨て置かれ。
 挙げ句、自分で勝手に生け贄となりさっさと死んでくれ。

 そういうことなのだろう。

 これが、大人か。
 冷酷極まりない。

 けれども、ちっぽけな子供でしかない自分達は声も荒げることも、どうしてと大人達に問うことすらも許されない。

「…………ね、知ってる?
鏡の向こうにある、もうひとつの世界のお伽噺」

「……?」

 ぎゅっと、さらに強く手を握りしめ、唐突に問うた声に、思わず眉間にしわを寄せる。

 そして、片割れの顔を訝るように眺めた。

「何で?」

 一体どうして、こんな時こんな状況で?

 正気かと、訝る片割れの疑問など露ほども知らない彼は、またさらに緩慢に口を開いた。

「カゲロウ。
現世で悲惨な末路を辿った生け贄達が、神様に拾われて、もう一度鏡の向こう側へ輪廻するってお伽噺」

 生け贄の行く末の物語。

 知っている。
 子供達を寝かしつける、寝物語として親が語って聞かせる物語だ。

 自分達は、語って貰えなかった。
 しかし、里の子達がそれを話しているのを聞いたらことがあるから、知っている。

「もし、ね。
そのお伽噺が本当なら……もう一度。
もう一度、同じ時に同じ場所で、巡り逢えるかな?」

 彼は、ゆっくりと俯けていた顔を上げ、少しだけ悲しみの帯びた表情で笑った。

 あぁ、もし。
 もし、そうであったなら。

 もう一度、巡り逢いたい。
 同じ双子でなくてもいい。
 人間でなくとも、鳥でも虫でも構わない。

 同じ世界の同じ時に巡り逢えたなら、それでいい。
 きっと、お互いのことはわかるから。

 だから、願う。
 もう一度、巡り逢えますように――。