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 それはあまりにも理不尽だと、幼いながらもそう思った。

 昼間であるはずなのに、空はどんよりと重たい雲に覆われ、ざあざあと止まぬ冷たい雨を落としている。

 もう、幾日(いくにち)も雨は降り止まない。
 (かさ)の増した川の水流は、ごうごうとうねるような波をたてながら過ぎて行く。

 地盤が長雨で緩み、今にも崩れ落ちそうな川岸に置かれた脆く寂れた祭壇(さいだん)は、時折足元が揺れて恐ろしい。

 そこに立たされているのは六歳くらいの、まだあどけない少年二人だ。

 二人は互いにぎゅっと、震える手を強く握りあう。

 そして、恐怖で引き吊る顔のまま、じっとただ成す術もなく川の激流を眺めていた。

「……どうして……誰も、いてくれないの……?」

 降り返ったうちの一人が周囲を見渡して、ぼそりと今にも泣き出しそうな声で呟く。

 それを隣で聞いていたもう片方の少年は、何も答えることが出来ず、ただしっかりと手を握りしめた。

 ことの始まりは、数日前。

 今は長雨に見舞われ易い梅雨の只中。
 雨が多くても、致し方ないだろう。

 けれども、たとえ梅雨の時期であろうとも、雨がなく晴れ渡った穏やかな日がわからなくなるほど降り続くのは稀だ。

 異常ではないかと、里の大人達が言っていた。
 長雨で緩んだ山肌は徐々に崩れ去り、川の堤防もいつ崩れてもおかしくない。

 もしそうなれば、決壊した堤防から濁流が流れ込み、さらには地滑りを起こした山の土砂に里は埋もれてしまうだろう。

 このままだと、里は全滅だ。