あぁ……。
 わたくしの、愛しい愛しい旦那様。

 もし、旦那様がそうする(・・・・)のなら、わたくしは。
 一日に千の命を、散らしましょう……。




 消え()ぶ魂鎮めは白銀(しろがね)

 つづしり遊ばす天津歌(あまつうた)

 金引(かなび)罪代(つみしろ)など僭上(せんじょう)なり

 (いまし)()ぐは(あわ)月影(つきかげ)

 数多(あまた)返したり避けらぬ別れに

 汝の清亮(せいりょう)なる夢歌を――

【訳】
死ぬほどに辛く思い、少しずつ歌うのは銀色の月がお詠みになる天界の歌である。

罪滅ぼしなどと人の心を試すのは贅沢である。

貴方に祈るのは、消えゆく月明かり。

何度も繰り返している避けらない別れに、貴方の清らかで澄んだ夢の歌を――。

「陽炎草子ー序巻・月蝶の番人と転生譚ーより」