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必死に走って男性を追いかける。


男性がどっちの方向へ行ったのかわからないし、もうすでに職場に到着してしまっているかもしれなかった。


それでもあたしは来た道を戻る。


「どこに行ったんだろう」


息を切らして立ち止まり、呟く。


行きかう人々の中にさっきの男性の姿は見えない。


その時だった。


通学する生徒たちの中に泣いている子がいるのを見つけたのだ。


あたしの視線は自然とその子にひき寄せられた。


「どうしたの?」


1人の友人らしき子が気がついて駆け寄っていく。


「さっき電車で痴漢に遭ったの……」


少女は目を赤くして鼻をすすりあげている。


「嘘、大丈夫だった?」


「あたし、なにもできなかった……」


少女の声はひどく震えている。