それはごく普通の通勤風景に見えた。


現にアユカはそのサラリーマンに目を向けることもなく、歩き続けている。


だけどあたしは思わず立ち止まり、振り返っていたのだ。


今の人、真っ黒だった……。


胸の部分に見えた真っ黒な魂。


それは何度も悪事を繰り返してきて、すでに取り返しがつかなくなった魂で間違いなかった。


軽い汚れならグレー程度の色だから、判断がつく。


今のは見逃せない黒さなのだ。


「陽菜、聞いてる?」


「あぁ……うん……」


あたしは曖昧に頷いて、再び歩き出したのだった。