「あ、平山先生だよ」


アユカが弾んだ声で言ったので、あたしは目を見開き愕然としてしまった。


美術準備室から出てきたのは間違いなく平山先生だったが、その胸にはどす黒い渦が巻いているのだ。


そこから美術室全体を充満させるようなモヤが放出されている。


廊下で見た時の平山先生はこんなに黒いものは見えなかったのに……!


黒いモヤは先生の体全体を包み込み、その顔も判別がつかなくなっている状態だ。


だけど、美術部員は誰1人としてそれに気がつかない。


平山先生に声をかけられた生徒は一様に頬を赤らめて、恋する乙女のようにほほ笑んでいる。


これは珍しいパターンだった。


おそらく平山先生はこの美術室でのみ汚れた魂を発散させているのだ。


外行きの心と本性を上手に隠している。