ファストフード店に負けないくらいの、カリカリとした表面に。まだ衣に残っている揚げ油と衣がぶつかって爆ぜる音。

 持ち手の部分は、火坑(かきょう)が丁寧に巻いてくれた紙で持ちやすく、今にもかぶりつきたくなるような出来栄え。

 衣が、まるで黄金のように光り輝いていて、食べるのがもったいないくらいだ。だが、せっかく火坑が手掛けてくれた逸品。食べなくてはもったいないだろうと、美兎(みう)真穂(まほ)とほぼ同時にフライドチキンにかぶりついた。


「んん!?」
「ん〜〜!!?」


 あまり高い温度で揚げていないと言っていたのに、普通に唐揚げと比較にならないくらいに衣はサクサク。中の肉にもきちんと火が通っていて脂身も相まってとてもジューシー。

 これには、ビール。と美兎はふた口くらい食べてから生ビールを煽り。幸せの循環に溶け込んでしまいそうになった。


「うっま!? 普通のジャンクショップの奴より断然美味しいですよ、火坑さん!」
「ふふ。お粗末様です」
「う」
「ま」
「い!」
「ほんと、美味し!」
「ねー?」


 しかも、大振りの肉がひとりにつき一本。

 贅沢な逸品である。

 生ビールをおかわりしながら食べ進めていくと、また誰か来たのか引き戸が開いた。


「邪魔するぜぃ!」
「久しぶりでやんす!」


 次は、夢喰いの宝来(ほうらい)にかまいたちの水緒(みずお)だった。小さい身体なのに、大きな発泡スチロールの箱を抱えていた。


「俺っち達は届けだけでぃ」
「な?」
「え? ご一緒出来ないんですか?」


 会うのも随分と久しぶりなのに、と気落ちしていたら宝来がウィンクしてきたのだった。


「俺っち達がずっといたら、美兎の嬢ちゃんと大将がゆっくり出来ねーだろ? だもんで、今日はこれだけさ」
「お嬢さんとは知り合いからの品でやんす」
「知り合い?」
「どなたでしょうか?」


 火坑がこっちに回ってきたので、蓋を開ければ中トロのような大きな魚のサクが入っていた。絶対刺身でも美味しそうだが、添えられていた手紙を火坑が見ると、くすりと笑ったのだった。


「誰からですか?」
「烏天狗の翠雨(すいう)さんからですね? 所用が立て込み過ぎて、直接は来られないそうです。これが、例のマンボウの肉ですよ」
「これが!?」
「え、マンボウって食えるんですか!?」


 辰也(たつや)も食べる手を止めてこちらに振り返るくらい。一同、マンボウの肉に釘付けになってしまった。


「じゃ、届けたんで俺っち達はこれで」
「また来るでやんす」
「はい」


 本当に届けるだけに来たようで、二人はさっさと帰ってしまったのだった。

 とりあえず、マンボウの肉は日持ちがしにくいのと。今日は既に重めの品々ばかり食べているので。マンボウの肉の一部を、シンプルに串焼きにしようと火坑は決めたようだ。


「マンボウの肉って聞いたことないけど。食えるんだー?」
「私も……火坑さんとお出かけした時に。烏天狗さんに聞いたんです。三重県や和歌山では食べられるって」
「え、初デートなのに。街中で妖怪に出会ったの?」
「ふふ。偶然ですが、あちらもお相手がいらっしゃったんですよ」
「……俺が知らないだけで、妖怪と人間が付き合うのって。意外と多いんですか?」
「それでも。ここ数十年は随分と減ってしまいましたよ?」
「そうねー?」


 紗凪(さな)と翠雨以外に、美兎も他に付き合っている人間と妖のカップルは知らない。ろくろ首の盧翔(ろしょう)や雪女の花菜(はなな)は同じ妖でも種族が違う。

 彼らともしばらく会っていないが、元気にしているだろうかと思っている間に。

 マンボウの串焼きがもう出来たのであった。

 肉汁がしたたり、見た目にも美味しそうな逸品。皿に盛り付けられた串焼きを、真穂や辰也達は串を持ったが美兎は串から取り外して箸を使った。

 息を軽く吹きかけて、ひと口。

 ついさっき、フライドチキンを食べたばかりなのでわかるが。本当に魚類なのに鳥肉のような食感と味わいだった。


「お邪魔します」


 美味しいと、声を上げそうになった時に。

 何故、ここにと思った人物が来訪してきた。

 会社の清掃員、三田(みた)久郎(くろう)が。まるで、ここの常連だという感じに入ってきたのだった。