名古屋から京都に行くには。

 新幹線で行った方が早い。他にも路線はあるが、火坑(かきょう)が奮発して交通費を支払ってくれたのだ。他にも、宿代まで。

 いいのか、と打ち合わせの時に聞くと。


「僕の貯金の使い道がなかったからですねえ? 大丈夫ですよ? 懐はまだまだ余裕があります」


 一人で店を切り盛りしている彼にとっては、多少奮発しても大丈夫なのだろうか。美兎(みう)とて、新社会人として貯金は少しくらいあるのに。

 元彼とでも、料金は割り勘だった。と言うか、後半からは美兎に払わせたりと。まったく、酷い男だった。

 兄が彼を殴り飛ばすまでは、自分が酷い男と付き合っていただなんて思っていなかったから。

 今が、楽しい、と美兎は思わず笑顔になってしまう。

 新幹線。しかも、グリーン車を予約してくれた火坑は。今日から少しの間響也(きょうや)の姿で一緒に過ごしてくれるので、隣の席でにこにこ笑ってくれていた。

 窓側が美兎、通路側が火坑だ。


「グリーン車だなんて初めてです!」
「僕も随分と久しぶりですね? 喫煙席が無くなったとはいえ、喫煙ルームから遠い方がいいでしょう? せっかくのお着物に臭いをうつらせては大変ですし」
「そうですね?」


 事前にメールで予約したらしい呉服屋の着物着付けで着る予定でいるので、今は普通の洋服だ。ずっと着物だと、慣れていない美兎には一時間程度の旅でも疲れるだろうからと。

 気遣ってくれた火坑には、本当に嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 それと、少し、いやだいぶ気になっていたのだが。

 響也になった顔をじーっと見ると、火坑はきょとんとした顔になった。


「? どうしました?」
「いえ。響也さんのお金に余裕があるのはお聞きしましたが、こちら(・・・)でも使えるお金ってどうやっているんですか?」
「! ああ、そうですね? 美兎さんには一年近く通ってくださってますが、一度もお伝えしてなかったですね?」
「はい。心の欠片も、結局はほとんど食べさせてもらってますし」


 この車両には、たまたま美兎と火坑しかいないので他人には聞かれない。

 けれど、念のために出来るだけ界隈の単語を出さないようにしなくては。

 火坑は、少し首をひねってからゆっくりと口を開いてくれた。


「まず。心の欠片は文字通り、魂である心を具現化したもの。美兎さんのような稀有な霊力の持ち主や、一部の妖からいただくことが出来ます。これは覚えてますよね?」
「はい」
あちら(・・・)では、欠片のすべてを換金場所に持っていく必要がありません。必要なのは、内包されている霊力もしくは妖力なので」
「……? 本当にひとかけらでも?」
「可能ですよ? (にしき)との境目にその換金所があるんですが。原寸のままだと、換金レベルが暴落してしまいますからね? なので、ほんのひとかけらでも十分なんです」


 なので、美兎や美作(みまさか)が頻繁に来てくれるお陰で、店の売り上げはうなぎのぼりだそうだ。

 師匠の霊夢(れむ)のところよりは劣るらしいが、それでもすごいことらしい。

 一時期貸切が続いた、大神(おおかみ)の時は潤い過ぎても、疲れてもうやりたくないそうだが。


「その換金所でお金をもらえても。換金所は何で得をするんです?」
「いい質問ですね? 心の欠片は稀な吉夢を生み出します。宝来(ほうらい)さんのような夢喰い。あとは吉夢を食事にする妖が購入するんです。いわゆる、オークションのようなもので」
「……色々使われるんですね?」
「ふふ」


 凄過ぎて、頭になかなか入って来ないが。

 とりあえず、そういうものだと理解しておくことにして。

 少し、眠くなってきた美兎は、火坑の肩にもたれかかってから寝てしまい。

 一時間後には、京都駅に到着していたのだった。


「ずっと寝ててすみません……」
「いえいえ、今日のためにお仕事を頑張られたからですし」


 美兎の寝顔を見れて役得だと言われると。

 思わず、顔に熱が集まってきたのだった。

 グリーン車から降りた京都駅は。

 小学校の修学旅行では使わなかったので驚いたが。

 名古屋駅以上に、スタイリッシュな装いの駅になっていたのだった。