まさかまさか。

 ダイダラボッチと共に菓子作りをすることになるとは。

 ろくろ首の盧翔(ろしょう)は、畏れ多いとまだビクビクしているが。

 更紗(さらさ)は更紗で。これから作るフロランタンの材料に目を輝かせていた。

 妖でも特殊な位置。総大将のぬらりひょんともまた違う位置にいるダイダラボッチは、ほかの妖と一線を画している。

 そんな彼が、恋人へのお返しを手作りしたいと言い出したのだ。位はなんであれ、彼も一人の存在に変わらないのだろう。


「更紗様、まずは手を洗いましょう?」
「うん」


 料理初心者に等しいが、手を洗うくらいは認識しているようだ。長い金と水色が混じった不思議な色合いの髪を、火坑(かきょう)が結えてやって。隆輝(りゅうき)からエプロンを借りて着込んだ。


「えーっと。バターは常温のを買えたからすぐ取り掛かれる。グラニュー糖は、きょーくん。計っておいてくれるかな?」
「いいですよ」


 ジャンルは違えど、料理人は料理人。さすがに手際がよかった。

 盧翔には、バターを切ってもらい。更紗には初心者なので、粉を振るう作業をしてもらうことに。


「ここに粉を入れます。で、ここを握ると、下のボウルの中に綺麗に振るった粉が出てくるんです。全部落ちるまでお願いします」
「わかったよ〜」


 隆輝がちょっと見本を見せただけで、子供のように目を輝かせたが。振るうとなると、真剣に向き合っていた。やはり、ただの妖ではないからだろう。

 その間に、隆輝はレモンの皮をすりおろして。専用のビニール袋を棚から持ってきた。


「じゃ、次は。バターにグラニュー糖を入れて切るように混ぜていくよ?」


 ここからは、全員それぞれ自分の分を作るようにするので。全員同じ工程をするのだ。

 更紗が一番心配だったが、隆輝がすぐ隣にいたお陰か真似て同じように出来ていた。飲み込みが早い。


「次は。卵黄、俺がすりおろしたレモンの皮。バニラビーンズに、更紗様が振るった薄力粉を入れて。また同じように混ぜていくよ?」


 順番に入れて混ぜていけば、綺麗な卵色の生地が出来上がる。まとまってきたら、手でまとめて。隆輝が持ってきたビニール袋に入れて。


「本当は十二時間とか寝かせたいけど。そこまで時間がないから、あとで妖術使うね?」


 その間に、少し後片付け、と。ここも初心者の更紗に教えながら進めていき。生地に時短の妖術をかけてから、袋ごと麺棒で伸ばす方法を教えていく。


「直接でもいいけど。袋の上からだと汚れにくいし綺麗に伸ばせるので。だいたい厚みは3mmくらい。ほんと薄いって思うくらいかな?」
「ねえねえ、隆輝。これどんなお菓子になるの〜?」
「クッキーみたいなお菓子ですね? けど、残りの材料で飴の部分を作って。生地の上で焼いちゃうんです」
「? うーん。食べたことないなあ〜?」
「まあ。店で作るとこも少ないですしね?」


 とりあえず、生地を薄く伸ばして。順番にオーブンで焼いていく。隆輝は仕事柄試作を自宅でもするので、二段式オーブンが二つもあるのだ。

 焼いたら、次はアパレイユと言う飴の部分である。


「生クリームも入れるんですね?」


 改めて材料を見て、火坑が感心していた。


「口当たりが滑らかになるしね? スライスアーモンド以外を鍋に入れて、すこーし色づくまで鍋で煮ていくよ?」


 軽く煮立って、色がほんのりついた瞬間を逃さず。アーネストスライスを入れて混ぜて。

 出来上がったら、焼いた生地の上に流し込み。広げたら、また少し焼いていく。


「粗熱が取れたら切り分けるよー? 完全に冷めてから切ると、アパレイユがガチガチになって割れちゃうから」
「じゃ、僕がコーヒーを淹れましょう。更紗様はコーヒーで大丈夫ですか?」
「ん〜〜……牛乳とか砂糖欲しい」
「カフェオレですね? 盧翔さんは?」
「お、俺はブラックで」


 まだまだ、若造故か更紗に対して緊張しているのだろう。見てて微笑ましく感じるが。