薔薇のチョコクッキー。

 なんと言うか女心をくすぐるワードではあるが。


「……先輩。初心者に難しくないですか?」


 渡されたレシピの写真を見てから、美兎(みう)沓木(くつき)に聞いたのだった。


「大丈夫よー? 生地さえしっかりしてれば、あとは粘土細工のようなものだし」
「いえ、粘土って」
「可愛いらしいじゃなあい? あたし作るわ〜!」
盧翔(ろしょう)……さんのためにも」
「みほ、こう言うの好きかしら?」


 などと、美兎以外はやる気満々だ。なので、美兎も火坑(かきょう)のために、と作ろうと決めたのだった。

 まずはチョコを湯煎とレンチンで溶かす作業をすることに。

 全員でチョコを刻んでは湯煎と、レンチンにかけて溶かしていく。


花菜(はなな)ちゃん、早いわねえ?」
「一応……料理人の端くれなので」


 専用の手袋で調理している花菜の手元がブレてよく見えにくい。けれど、怪我する事もなく綺麗に刻めているのだ。


「はぁ〜い? 粉類はふるっておいたわ〜」


 宗睦(むねちか)こと、チカは途中から粉類を振るう係になってもらったので。部屋中にチョコの香りが充満している中で、次の作業に移ることに。


「じゃ、溶かしたチョコが熱いうちに砂糖を入れて混ぜて」


 その後に、卵。

 その後に、振るった粉類。

 まとまってきたら、手で生地の中身が均一になるようにひとまとめしていく。


「ひとりにつき……この大きさならだいたい三つ分ね? 芯、花びら……と分けていくんだけど。花びらの方は外側に行くにつれて生地の分量を多くして丸めてね?」
「は〜い、ケイちゃん先生!」
「はい、チカさん」
「なんで、外側につれて大きくするのん?」
「いい質問。外に行くにつれて、花びらって大きいでしょ? そのためなの」
「へ〜〜?」
「わ、わかりました!」


 そこからは、沓木のアドバイスも加えながらまずは丸めていき。だいたい三組分出来上がったら、軽く紅茶を飲んでひと息。

 けれど、ゆっくりは出来ないので、すぐに作業再開だ。


「芯に沿って、まず一番小さい丸を。少し平たく伸ばして、芯に巻きつけていくの」


 そして、何個かを潰して貼って。を繰り返したら、たしかに花の形になっていた。


「先輩すごいです!」
「ありがと。けど、このレシピ。(たか)君から教わったの」
「? 相楽(さがら)さんから?」
「インパクト大の、バレンタインプレゼントならこれがいいんじゃないかって」
「あいつらしいわねぇ?」
「え。先輩。相楽さんにもこれ渡すんですか?」
「本職には敵わないけど、一応そのつもり。これじゃなくて、もっとビターにするけど」
「なるほど……!」


 ただ、だんだんと底が長くなっていくので大丈夫かと思ったが、ここでもケイちゃん先生のアドバイスが。


「だんだん底が長くなっていくでしょ? ゴムベラなどで削ぎ落として。また花びらだったり、葉っぱを作るのもいいわ」


 と言われたので、美兎は葉っぱにしたのだった。出来上がった花は、本当に綺麗な薔薇そのものになったのだ。


「綺麗……!」


 少しいびつだが、きちんと薔薇の形になっている。

 火坑は喜んでくれるだろうかと、少し期待してしまうのだった。


「あとは、170℃ののオーブンで二十分くらい焼いたら完成ね? 二台もあるから、全員分焼けるわ」


 なので、片付けをしてからコーヒーブレイクすることになったが。花菜がうっかり手袋を外してしまったので、彼女の分だけカチカチのアイスコーヒーになったのを笑ってしまったのだ。