根本的に考え方が間違っている。

ここは発想の転換が必要だ。

いくら的を正確に3.00秒、1.00秒にしようったって、所詮無理だ。

自分に無理なことは、やらないに限る。

じゃあどうする? 

的を動かさなくたって、こっちを正確に3.00秒と1.00秒に設定してやればいいんだ。

それならば的が静止していようが、実際に動いていようが、基本的には変わりない。

俺はマシンを動かすプログラムの方に手をつけた。

これなら簡単、ちょちょっと数字を打ち込むだけで、ほら出来た。

弾を撃ち出してみる。

それは実に正確に、静止した的を撃ち抜いた。

「わ、本当に出来てるんですね、やっぱり吉永先輩は、凄いです」

鹿島は一人で入って来た。

手には昨日、山崎が持って行った本を抱えている。

「これ、ありがとうございました。助かりました」

「あー、片付けといて」

鹿島は「はい」と答えると、素直に元の棚に本を戻した。

俺はマシンの横移動の方法を探っている。

「予選会って、いつだっけ」

「来月です」

「そっか。はは、このままじゃ間に合わねーな」

鹿島は俺の対角に向かうと、目線をテーブルと水平に合わせた。

「先輩のは、本体を移動させる方式なんですね」

「その方が作るのが、簡単だと思ったんだよ」

「移動のロスタイムと、的のランダム性がネックですね。タイヤスピードは、いくらに設定してあるんですか?」

俺は思わず、声を出して笑った。

鹿島はすぐに、その場に立ちあがる。

「すみません。余計なことを言いました」

「別にいいよ」

俺は鹿島を見上げた。

「お前らのマシンは出来たんだろ? 楽しみにしてるよ」

「少し、手伝ってもらえたので」

鹿島は言った。

「俺の父さん、こういうの、ちょっと詳しいんです」

「あぁ、いいんじゃねぇの? それでちゃんと出来たんなら」

俺よりずっと背の高い鹿島が、もじもじしながら作業を見守っていた。

俺はパソコンの前に座って、足回りのプログラムを組み直している。

彼はふと息を吐いた。

「先輩は、本当に好きなんですね」

俺は今なら、その言葉に素直にうなずける。

「うん、好きだよ」

鹿島も笑った。

俺の真横まで寄ってきて、パソコンのすぐ脇に手をつく。

鹿島は楽しそうに、自分のマシンの制作過程について、俺に話し始めた。