「はいそこ、邪魔なんですけど」

そんな俺の背後から、ムカツク野郎の声が響いた。

生徒会長の庭木佐久馬だ。

いかにも真面目ですっていうような堅物で、背はそれほど高くはないけど、ガタイはいい。

奥川のまわりをいつもちょろちょろしている、ウザイ奴だ。

「お前、部長になったんだろ? ちゃんと自覚持ってしっかりやれよ。画像送れってメッセ来た時、俺の隣で奥川がキレてたぞ」

色々とカチンと来るセリフだが、ここは大人の俺が華麗にスルーしておく。

こういうのは、相手にした方が負けだ。

「まぁそれでも、なんだかんだ言ってちゃんと保存しておいてくれてるところが、アイツらしいけどな。普通とっとかないだろ、そんな写真」

俺と奥川は小学校からの幼なじみで、親も公認の仲だ。

母親同士も仲がいいから、小さい時はしょっちゅう一緒に遊んでいた。

「そんなの、偶然に決まってるだろ。消すの忘れてたか、それ以上に、別に何にも意識してなかっただけじゃないのか」

「後でまた、お礼言っとかないとな~!」

ワザと奥川にも聞こえるような大声を出す。

庭木の顔が、ムッとゆがんだ。

「じゃ、そういうことで」

何がそういうことなのかは、言った俺にも分かってないけど、庭木が不愉快に思ったのなら、それで俺の勝ちだ。

意気揚々と自分の教室に戻る。

自分の席に座って、全身の空気を吐き出した。

奥川とクラスが離れたことは残念だけど、こういう緊張から解放される瞬間があるのは、ありがたい。

俺の今日の1日は、もうこれで終わったようなもんだ。

本日最大のミッションをやりとげた俺にとって、残りの時間は部活の始まる放課後までの、暇潰しに過ぎない。

やっぱり奥川には、今年こそ、今度こそ、入部してもらおう。

名前だけでもいいから、何でもいいから、彼女とつながりを持っておきたかった。

そうすればまたすぐに、こうやって話しかける口実が出来る。

全くの心配とか不安とかはないけど、庭木の存在は気になる。

もう一度ため息をつく。

顔を上げたら、のんきな顔をした山崎が、遅刻寸前で教室に入ってきた。

俺はそんな彼の存在にほっとすると、そこに駆け寄った。