-side 田島亮-
本日は3月20日。3学期の終業式の日である。空は生憎の雨模様。1年最後の登校日くらいは晴れてもいいんじゃないだろうか。意地の悪いお天道様もいるものだ。
色々ありすぎたバレンタインから約1ヶ月が経過した。この1ヶ月の間は特にこれといったイベントが起きることは無かった。
いや、まあ卒業式はあったんだけどさ、俺3年生に知り合い居ないから完全に他人事って感じだったんだよね。
あとはホワイトデーに友恵、アリス先輩、仁科、岬さん、そして咲にバレンタインの時のお返しをしたくらいだな。
俺は今通学路を久しぶりに一人で歩いている。今朝は珍しくアリス先輩が俺の家に来なかったのだ。
別にアリス先輩に家に来て欲しいわけじゃないけどさ、突然来なくなったらそれはそれでなんか不安になるんだよな...あの人何か企んだりしてそうで怖いんだよ...
まあそういうわけで俺は雨の中、少々不安定な心持ちで今年度最後の学校へ向かっている。
最後くらい晴れやかな気持ちで登校したかったものだ...
-------------------------
学校に着き、教室の扉を開けると教卓の前に柏木先生が立っていた。まだ朝のHRまで時間があるのになんで教室にいるんだろう。
「あ、田島!やっと来たか!お前進路希望調査票まだ提出してないだろ!提出期限は昨日までだったんだぞ!早く出しなさい!」
「あ、そういえばそんなものありましたね...」
進路希望調査票。完全に存在を忘れていた。配られたの2週間くらい前だったっけ...
「でも先生、俺特に行きたい大学無いんです。ていうか行ける大学が無い気がします」
天明高校は進学校であるため、進路希望調査票には進学という選択肢以外存在しないのだ。志望大学を書く欄、そして来年度に文系と理系のどっちを選択するのかを記入する欄しか無い。
「そ、そうか...じゃあ文理選択だけ今記入して提出してくれ。来年度のクラス分けに影響するから」
「分かりました」
そして俺は自分の席に着き、カバンの中から2週間ずっと入れっぱなしだった進路希望調査票を取り出して文理選択欄の記入をした。
記入を終えた俺は再度教卓の前に行き、先程記入した進路希望調査票を提出した。
「はい先生、これお願いします」
「お前随分と記入するのが早かったな...」
「まあ文理選択を悩めるほどの学力が無いので」
「じゃあ補習の量増やすか?」
「それだけは勘弁して下さい...」
「はは、冗談だよ。ほら、もうすぐ朝のHRの時間だ。早く席に着きなさい」
「了解っす」
そして先生に促された俺は席に戻った。
「ねえ、田島は文系と理系どっちにしたの?」
席に戻るとすぐに隣の席の仁科から声を掛けられた。
「文系だよ。国語以外の点数悪すぎるからな。理系は無理だ」
「そ、そうなんだ。ふーん...」
「お前なんで急にそんなこと聞いてきたんだ?」
「な、なんとなくよ!なんとなく!」
仁科がそう言うと後ろの席の翔も話に加わってきた。
「おい仁科。素直になれって。お前亮と来年も同じクラスになる可能性があるのか気になったんだろ?だから文理選択について聞いたんだろ?」
「ち、ちがうし!新島は引っ込んでてよ!」
「はいはい、お二人の仲の邪魔はしませんよ」
「あー、もう!新島ってほんとウザい!」
「おい、翔。前々から思ってたんだがお前俺と仁科の関係を誤解してないか?」
「誤解なんてしてないぞ?お前ら夫婦だろ?」
「思いっきり誤解してるじゃねえか...」
「いや、だってお前ら毎日休み時間に俺の目の前でイチャイチャしてるじゃねえか。新婚夫婦みたいに」
「いや、普通に喋ってるだけなんだが...」
「そうよ!普通に話してるだけよ!」
「それをイチャついてるっていうんだよ。お前ら仲が良すぎな。まどろっこしいからさっさとくっ付け!」
「は?なんでそうなるんだよ。俺たちはただの友達だぞ。そうだよな?仁科」
「う、うん。そうね。私たちはただの友達よね...」
「あー、なんかお前らがいつまで経ってもくっつかない理由が今分かったわ」
「は?どういうことだ?」
「うるせえ!そんなの自分の胸に聞きやがれ!このラブコメ主人公が!」
「いきなり何言ってんだよお前!」
「おい!そこの特待生3人うるさいぞ!HR始めるから静かにしろ!」
俺たちの会話を遮るように柏木先生の怒声が飛んできた。気づかぬ内に会話がヒートアップしてしまったようだ。
「お前ら3人は1年経っても全然変わってないな...まあいい。とりあえず今年度最後のHRを始めるとするか...」
そして柏木先生は俺たちに呆れつつ朝のHRを始めた。
-------------------------
朝のHRが終わった後、俺は終業式に参加するために体育館に向かった。
先ほど終業式が始まり、今は校長が壇上に上がっている。まさにこれから生徒に向けて話をしようとしているところだ。
こういう儀式がある時毎回思うんだけど体育座りで校長の長い話を聞くのって本当に苦痛だよな。誰も得しないのになんでこのオッサンの話聞かなきゃいけねえんだよ。
そんな風に俺が心の中で悪態をついていると校長の話が始まった。
「えー、生徒諸君。まずは1年間お疲れ様でした。はは、3年生が卒業して今は2学年分の生徒しか居ないので少し体育館が広く感じますね。寂しいものです」
いつも思うんだけどさ、『生徒諸君、お疲れ様でした』だけ言って話終わりでいい気がするんだよね。それ以上何か言葉いる?
「皆さんはもうすぐ学年が1つ上がります。1年生はもうすぐ先輩になるという自覚、2年生はもうすぐ最高学年になるという自覚を持って春休みを過ごして欲しいですね」
『先輩になる』か。
俺から見たら周囲の人々は全員先輩に見えるんだよね。だって俺の体感では人生始まったのが去年の9月だし。数字的には16年生きてきたとしてもさ、感覚的にはまだ人生始まって半年しか経ってないんだよ。
そう考えると今俺と関わりのある人たちはちゃんと数字的にも感覚的にも16年生きてきた大先輩なんじゃないかと思うんだよ。
そしてもうすぐ入学してくる後輩達もちゃんと15年生きてきたわけだろ?なんだか先輩面する気にならないんだよね。
...はは、なんか自分が何歳なのかよく分からなくなってきたな。
それ以降も校長の話は続いたが、俺はなんとなくそれ以上話を聞く気にはなれなかった。
-------------------------
校長の話を聞いた後は春休みに際しての諸注意があっただけで、それ以外は特に何もなく終業式は終わった。意外と早く終わってビックリ。
そしてもちろん今日は授業も補習も無い!つまり今すぐ帰れるということだ!やったぜ!
そう思って意気揚々と校門を出ようとした時だった。
「ダ・ア・リ・ン♪」
背後からとても聞き覚えのある声が聞こえてきた。
...いや、気のせいだろう。多分俺の背後に金髪ハーフ女子の先輩なんていないはずだ。うん、そんな人俺の知り合いにはいない。今すぐ帰ろう。
そう思って前へ一歩踏み出すと背後にいる人物から肩を掴まれた。
「ちょっと!無視するなんてひどいよー!」
「...人違いですよ」
「もう!せめてこっち向いて喋ってー!」
「...」
まあこの人から逃げるなんて無理なのは分かってたんだよ。それに朝この人がウチに来なかった時点でなんとなくこうなる気はしてたんだよ。
観念した俺は振り向いてアリス先輩と向かい合うことにした。
「あ!やっとこっち向いてくれた!」
「アリス先輩...一体何の用ですか...」
「大した用事じゃないわ!一緒に新聞部室に来てくれるだけでいいの!」
「絶対嫌です」
「えー!なんで!」
いや、行くわけないだろ。アンタ俺に新聞部室で何したのか覚えてないのか。あの出来事以来、新聞部室って俺的にはどんな心霊スポットよりも近づきたくない場所なんだよ。つーか、お互いあの場所に良い思い出ないはずじゃ...
「あのー、また俺を取材したいんですか?」
「いや、そういうわけじゃないのよ」
「じゃあ何するんですか?」
「それは部室に行ってからのお楽しみ!」
「...なるほど。では帰らせていただきます」
「ふっふっふ、じゃあダーリンはこれを見ても帰るなんて言えるかな?」
そう言うとアリス先輩は制服のポケットから携帯を取り出して画面を俺に見せてきた。
「な、なんでアリス先輩がこの写真を持ってるんですか...」
なんとアリス先輩の携帯画面には俺と岬さん(前髪上げバージョン)が写っていた。映画デートの時の写真だ。
「ふふふ、私には協力者がいるのよ」
「協力者...?ハッ、まさか!」
ここで俺はRBIの裁判にかけられた日に翔とした会話を思い出した。
----------------------------
『翔、お前日曜の写真他の奴に送ってないよな?』
『ああ、俺が写真を送ったのは4人だけだ』
『ちょっと待てRBIって3人だけだよな?もう1人他の誰かに送ったってことか?』
『まあそうなるな』
『誰に送ったのか答えろ』
『依頼主との契約上それはできない』
----------------------------
まさかあの時言ってた依頼主って...
「アリス先輩、一応その協力者の名前聞いても良いですか?」
「新島翔君だよ」
「...」
ちくしょう!翔のやつよりによってアリス先輩と繋がってやがったのかぁぁぁ!!
本日は3月20日。3学期の終業式の日である。空は生憎の雨模様。1年最後の登校日くらいは晴れてもいいんじゃないだろうか。意地の悪いお天道様もいるものだ。
色々ありすぎたバレンタインから約1ヶ月が経過した。この1ヶ月の間は特にこれといったイベントが起きることは無かった。
いや、まあ卒業式はあったんだけどさ、俺3年生に知り合い居ないから完全に他人事って感じだったんだよね。
あとはホワイトデーに友恵、アリス先輩、仁科、岬さん、そして咲にバレンタインの時のお返しをしたくらいだな。
俺は今通学路を久しぶりに一人で歩いている。今朝は珍しくアリス先輩が俺の家に来なかったのだ。
別にアリス先輩に家に来て欲しいわけじゃないけどさ、突然来なくなったらそれはそれでなんか不安になるんだよな...あの人何か企んだりしてそうで怖いんだよ...
まあそういうわけで俺は雨の中、少々不安定な心持ちで今年度最後の学校へ向かっている。
最後くらい晴れやかな気持ちで登校したかったものだ...
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学校に着き、教室の扉を開けると教卓の前に柏木先生が立っていた。まだ朝のHRまで時間があるのになんで教室にいるんだろう。
「あ、田島!やっと来たか!お前進路希望調査票まだ提出してないだろ!提出期限は昨日までだったんだぞ!早く出しなさい!」
「あ、そういえばそんなものありましたね...」
進路希望調査票。完全に存在を忘れていた。配られたの2週間くらい前だったっけ...
「でも先生、俺特に行きたい大学無いんです。ていうか行ける大学が無い気がします」
天明高校は進学校であるため、進路希望調査票には進学という選択肢以外存在しないのだ。志望大学を書く欄、そして来年度に文系と理系のどっちを選択するのかを記入する欄しか無い。
「そ、そうか...じゃあ文理選択だけ今記入して提出してくれ。来年度のクラス分けに影響するから」
「分かりました」
そして俺は自分の席に着き、カバンの中から2週間ずっと入れっぱなしだった進路希望調査票を取り出して文理選択欄の記入をした。
記入を終えた俺は再度教卓の前に行き、先程記入した進路希望調査票を提出した。
「はい先生、これお願いします」
「お前随分と記入するのが早かったな...」
「まあ文理選択を悩めるほどの学力が無いので」
「じゃあ補習の量増やすか?」
「それだけは勘弁して下さい...」
「はは、冗談だよ。ほら、もうすぐ朝のHRの時間だ。早く席に着きなさい」
「了解っす」
そして先生に促された俺は席に戻った。
「ねえ、田島は文系と理系どっちにしたの?」
席に戻るとすぐに隣の席の仁科から声を掛けられた。
「文系だよ。国語以外の点数悪すぎるからな。理系は無理だ」
「そ、そうなんだ。ふーん...」
「お前なんで急にそんなこと聞いてきたんだ?」
「な、なんとなくよ!なんとなく!」
仁科がそう言うと後ろの席の翔も話に加わってきた。
「おい仁科。素直になれって。お前亮と来年も同じクラスになる可能性があるのか気になったんだろ?だから文理選択について聞いたんだろ?」
「ち、ちがうし!新島は引っ込んでてよ!」
「はいはい、お二人の仲の邪魔はしませんよ」
「あー、もう!新島ってほんとウザい!」
「おい、翔。前々から思ってたんだがお前俺と仁科の関係を誤解してないか?」
「誤解なんてしてないぞ?お前ら夫婦だろ?」
「思いっきり誤解してるじゃねえか...」
「いや、だってお前ら毎日休み時間に俺の目の前でイチャイチャしてるじゃねえか。新婚夫婦みたいに」
「いや、普通に喋ってるだけなんだが...」
「そうよ!普通に話してるだけよ!」
「それをイチャついてるっていうんだよ。お前ら仲が良すぎな。まどろっこしいからさっさとくっ付け!」
「は?なんでそうなるんだよ。俺たちはただの友達だぞ。そうだよな?仁科」
「う、うん。そうね。私たちはただの友達よね...」
「あー、なんかお前らがいつまで経ってもくっつかない理由が今分かったわ」
「は?どういうことだ?」
「うるせえ!そんなの自分の胸に聞きやがれ!このラブコメ主人公が!」
「いきなり何言ってんだよお前!」
「おい!そこの特待生3人うるさいぞ!HR始めるから静かにしろ!」
俺たちの会話を遮るように柏木先生の怒声が飛んできた。気づかぬ内に会話がヒートアップしてしまったようだ。
「お前ら3人は1年経っても全然変わってないな...まあいい。とりあえず今年度最後のHRを始めるとするか...」
そして柏木先生は俺たちに呆れつつ朝のHRを始めた。
-------------------------
朝のHRが終わった後、俺は終業式に参加するために体育館に向かった。
先ほど終業式が始まり、今は校長が壇上に上がっている。まさにこれから生徒に向けて話をしようとしているところだ。
こういう儀式がある時毎回思うんだけど体育座りで校長の長い話を聞くのって本当に苦痛だよな。誰も得しないのになんでこのオッサンの話聞かなきゃいけねえんだよ。
そんな風に俺が心の中で悪態をついていると校長の話が始まった。
「えー、生徒諸君。まずは1年間お疲れ様でした。はは、3年生が卒業して今は2学年分の生徒しか居ないので少し体育館が広く感じますね。寂しいものです」
いつも思うんだけどさ、『生徒諸君、お疲れ様でした』だけ言って話終わりでいい気がするんだよね。それ以上何か言葉いる?
「皆さんはもうすぐ学年が1つ上がります。1年生はもうすぐ先輩になるという自覚、2年生はもうすぐ最高学年になるという自覚を持って春休みを過ごして欲しいですね」
『先輩になる』か。
俺から見たら周囲の人々は全員先輩に見えるんだよね。だって俺の体感では人生始まったのが去年の9月だし。数字的には16年生きてきたとしてもさ、感覚的にはまだ人生始まって半年しか経ってないんだよ。
そう考えると今俺と関わりのある人たちはちゃんと数字的にも感覚的にも16年生きてきた大先輩なんじゃないかと思うんだよ。
そしてもうすぐ入学してくる後輩達もちゃんと15年生きてきたわけだろ?なんだか先輩面する気にならないんだよね。
...はは、なんか自分が何歳なのかよく分からなくなってきたな。
それ以降も校長の話は続いたが、俺はなんとなくそれ以上話を聞く気にはなれなかった。
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校長の話を聞いた後は春休みに際しての諸注意があっただけで、それ以外は特に何もなく終業式は終わった。意外と早く終わってビックリ。
そしてもちろん今日は授業も補習も無い!つまり今すぐ帰れるということだ!やったぜ!
そう思って意気揚々と校門を出ようとした時だった。
「ダ・ア・リ・ン♪」
背後からとても聞き覚えのある声が聞こえてきた。
...いや、気のせいだろう。多分俺の背後に金髪ハーフ女子の先輩なんていないはずだ。うん、そんな人俺の知り合いにはいない。今すぐ帰ろう。
そう思って前へ一歩踏み出すと背後にいる人物から肩を掴まれた。
「ちょっと!無視するなんてひどいよー!」
「...人違いですよ」
「もう!せめてこっち向いて喋ってー!」
「...」
まあこの人から逃げるなんて無理なのは分かってたんだよ。それに朝この人がウチに来なかった時点でなんとなくこうなる気はしてたんだよ。
観念した俺は振り向いてアリス先輩と向かい合うことにした。
「あ!やっとこっち向いてくれた!」
「アリス先輩...一体何の用ですか...」
「大した用事じゃないわ!一緒に新聞部室に来てくれるだけでいいの!」
「絶対嫌です」
「えー!なんで!」
いや、行くわけないだろ。アンタ俺に新聞部室で何したのか覚えてないのか。あの出来事以来、新聞部室って俺的にはどんな心霊スポットよりも近づきたくない場所なんだよ。つーか、お互いあの場所に良い思い出ないはずじゃ...
「あのー、また俺を取材したいんですか?」
「いや、そういうわけじゃないのよ」
「じゃあ何するんですか?」
「それは部室に行ってからのお楽しみ!」
「...なるほど。では帰らせていただきます」
「ふっふっふ、じゃあダーリンはこれを見ても帰るなんて言えるかな?」
そう言うとアリス先輩は制服のポケットから携帯を取り出して画面を俺に見せてきた。
「な、なんでアリス先輩がこの写真を持ってるんですか...」
なんとアリス先輩の携帯画面には俺と岬さん(前髪上げバージョン)が写っていた。映画デートの時の写真だ。
「ふふふ、私には協力者がいるのよ」
「協力者...?ハッ、まさか!」
ここで俺はRBIの裁判にかけられた日に翔とした会話を思い出した。
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『翔、お前日曜の写真他の奴に送ってないよな?』
『ああ、俺が写真を送ったのは4人だけだ』
『ちょっと待てRBIって3人だけだよな?もう1人他の誰かに送ったってことか?』
『まあそうなるな』
『誰に送ったのか答えろ』
『依頼主との契約上それはできない』
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まさかあの時言ってた依頼主って...
「アリス先輩、一応その協力者の名前聞いても良いですか?」
「新島翔君だよ」
「...」
ちくしょう!翔のやつよりによってアリス先輩と繋がってやがったのかぁぁぁ!!