-side 田島亮-
「どちら様ですか?こんな時間にウチに何か用ですか?」
「げ、亮!?」
「え、咲!?なんでこんなとこにいるんだ!?」
俺はつい先程家の前に着いたのだが、玄関横のポストの前に人影があった。暗くて顔がよく見えなかったのでその人物に声を掛けてみたのだが、なんとその人影の正体は咲だった。もう暗くなっているというのにこんな時間に何をしているのだろうか。
「わ、私もう帰るから!」
「え!?ちょっと待てって!おい!」
咲は俺に会って10秒も経たない内に走ってその場を去ってしまった。マジで何してたんだろあいつ...
先程まで咲がいたポストの方をよく見ると、ポストの扉が開いていた。中には紙袋が入っているようだ。
「そういうことだったのか...」
ポストから紙袋を取り出し、中を確認するとチョコクッキーと手紙が入っていた。さっき俺はこれをポストに入れている最中の咲を偶然見てしまったということだろう。うわ、最悪のタイミングで帰ってきてしまったな...
しかし咲とは幼馴染だが、元日以来あまり話してないしチョコをくれるとは思ってなかった。正直ちょっと驚いている。
それと手紙のことも気になる。ただチョコを渡すだけでなく、手紙とセットで渡してきたのはどんな意図があるのだろうか。
手紙の内容が気になった俺は家に入り、自分の部屋に直行した。
-------------------------
部屋に着いた俺は早速手紙の封を開けてみた。
封の中には想像していたよりもずっと多い文量の手紙が入っていた。一体どんなことが書いてあるんだろう。早速読んでみよう。
『亮へ。まずはチョコを渡すのが遅れてしまってごめんなさい。クッキーを作るのは初めてだったから失敗ばかりでなかなか上手く作ることができなかったの。ごめんね』
え、こいつもしかして今日の放課後までクッキー作ってたんじゃないか?もしそうだとしたら外が暗くなっている時間にクッキーをウチのポストに届けに来たことにも納得がいく。
わざわざ俺のためにそんなことをしてくれてたのか...
でも咲って文章の時と普段話す時で口調が微妙に違うのな...俺咲から『ごめんね』とか言われたことないぞ...
まあいい。とにかく続きを読むとしよう。
『手紙を書いたのは普段亮に直接言えないことを伝えるためなの。長くなるかもしれないけど最後までちゃんと読んでくれたら嬉しいな』
咲が普段俺に言えないこと...?
『私は亮が記憶を失ったって聞いた時とても悲しかった。一緒に仲良く遊んでた時の思い出を私だけ覚えてるっていうのが辛かった』
...それは俺もなんとなく分かっていた。でもいざ言葉にして記されると心にくるものがある。
『でもね、嬉しかったこともあるんだよ。亮は分からないかもしれないけどね、亮の性格とか人間性って記憶を失っても全然変わってないんだよ。出会った時と全然変わってないの。それがとても嬉しかったな。まあ、たまに余計な一言があるっていうのも変わってないんだけどね。うん、そこは直してほしいかな』
はは、良くも悪くも俺は変わってないってことね。
『私は最初は亮が記憶を失ったことを悲しんでばかりいた。でもね、時間が経つにつれてこう思うようになったんだ。【だったら私が今までの思い出を教えてあげればいいじゃん!】って。だからこれからは少しずつ亮に私たちの思い出について話していけたらいいなって思ってる』
咲...そんなことを考えてくれてたのか...
『そしてまた昔みたいに仲良く話せるようになりたいなって思ってるんだ。亮が昔のことを覚えてなかったとしても私の幼馴染は亮だけだから』
え、ちょっと感動してきた...
『だけど最近はあまり話せてないし、話せたとしてもきつい態度をとることが多かったよね。でも別に亮のことが嫌いってわけじゃないの。信じてもらえないかもしれないけど本当なの』
いや、まあ元日の一件以来あんま嫌われてるとは思わなくなってたんだけどな。
『私の性格上、これからも亮にはきつい態度をとっちゃうかもしれない。でも心の中では昔みたいに仲良く話したいって思ってて...つまり何が言いたいかっていうと...別に私は亮のことを嫌ってるわけじゃないからさ、亮も私のことは嫌いにならないでよね!』
はは、こんなに心のこもった手紙をくれる幼馴染を嫌いになるわけがないじゃないか。
『長々と書いてきたけど私が伝えたかったことは以上です。最後まで読んでくれてありがとう!これからもよろしくね! 咲より』
まさか咲がこんな手紙をくれるなんて思ってなかったな...普通に感動したわ...
色んなことが書かれていたが、記憶を無くしても俺は全然変わっていないと言ってくれたことが一番嬉しかった。
正直俺は記憶を無くして以来、ちゃんと『田島亮』として生きることができているのか不安になる時があった。実は周囲の人々は今の自分を認めてくれていないんじゃないかと考えてしまう時もあった。
だから家族以外では最も距離の近い人物である幼馴染に今の自分を肯定してもらえたのがとても嬉しかった。『記憶を失ってても亮が幼馴染であることに変わりはない』という言葉には本当に救われた。
「あ、そういやまだクッキー食ってなかったな...」
手紙ばかり気にしていて咲の手作りクッキーを食べるのを忘れていた。せっかく作ってくれたんだ。ありがたくいただくとしよう。
そう思った俺は紙袋からクッキーを取り出し、1つ口に入れてみた。
「うわ、うめぇ...」
初めての手作りとは思えないほどの味だ。口の中に優しい甘みが広がっていく。あいつ、自分が納得する味になるまで何回も作ったんだろうな...
咲、俺なんかのために頑張ってくれて本当にありがとう...
クッキーを味わいながら心の中で咲に感謝していると、突然俺の部屋の扉が開く音がした。
「兄貴ー!夜ご飯の時間だぞー...ってえ?なんでクッキー食べながら泣いてるの?」
「え...?」
友恵に言われ、自分の目元を触って確認してみたが、確かに涙が出ていた。うわ、俺いつの間に泣いてたんだろ...つーか俺の涙腺ほんと弱いな...
「ねえ、なにかあったの?」
「はは、まあな...」
「まあ落ち着いたらご飯食べに下に降りてきなよ」
友恵はそう言って俺の部屋から出て行った。
妹に泣いてるところ見られちまうとはな...
でもしょうがなくね? あんな内容の手紙もらうだけでも感動モノなのにさ、それに加えてあのクッキーを味わって『咲が俺のために一生懸命作ってくれたんだよな...』とか考えたら感極まっちゃったんだよ。はは、俺の涙腺ほんとガバガバだな。
「あ、腹減ってきた...」
なんか色々考えてたら急に空腹感に襲われた。まあ今日色々あったからな...そろそろ飯食いに行くか...
そして俺は夕食をとるために家族が待つ一階へ向かった。
--------------------------
夕食後、部屋に戻ると咲からメッセージが来ていた。
『手紙読んだ?』
まあ結構濃い内容の手紙だったもんな。そりゃ俺が読んだかどうか気になるよな。
『ああ、読んだぞ』
そして俺がメッセージを送ると咲からの返信はすぐに来た。
『そうなんだ。なら良かった』
『なぁ咲』
『何?』
『今から電話かけてもいいか?』
『ええ!?急にどうしたのよ!?』
実は俺には咲に直接言葉で伝えたいことがある。咲からメッセージが来なくても元々こっちから電話する予定だった。
『やっぱ夜遅いし電話はだめか?』
『いや、そういうわけじゃないけど...』
『じゃあ今から電話かけるわ』
『うん、分かった...』
よし、咲の了承も得たことだし電話するか。
意を決して俺が発信ボタンを押すと咲はすぐに電話に出た。
「も、もしもし...」
「夜遅くに電話してごめんな」
「それは別にいいんだけどこんな時間に何の用?」
「いや、なんか手紙を読んだらさ、直接お前に言葉で伝えたいことができたんだよ」
「私に伝えたいこと...?」
「ああ、そうだ。まあ別に大したことじゃないんだけどな」
「...それで私に伝えたいことって何?」
「俺がお前を嫌いになることなんて絶対無いから余計な心配するなってこと」
「えっ!?」
手紙の内容から察するに咲は俺から嫌われているのではないかと心配しているようだった。だから嫌ってなんかいないということを直接伝えて咲を安心させたかったのだ。
「...」
なぜだろう。咲が急に黙り込んでしまった。
「おーい咲ちゃーん、起きてるかー?」
「う、うるさいわね!起きてるわよ!亮がいきなり変なこと言うから驚いただけよ!」
「そうやってツンツンしてても実は俺と昔みたいに仲良く話したいと思ってるんだろ?大丈夫。全部分かってるから心配するな」
「ちょ、亮!手紙に書いてたことを直接口に出すのはやめてよ!そういうのがアンタの余計な一言なのよ!」
「別に俺と仲良くしたいってことを否定はしないんだな」
「そ、それは...あー、もう!うるさい!私もう寝るから!それじゃあ、おやすみ!」
そう言い残して咲は電話を切ってしまった。やっぱ普通に話す時は手紙の時と違ってツンツンしてたな...
でも手紙を読んで咲の本心を知ったらなんだかツンツンしてるアイツと話すのも楽しくなってきたな。
「はぁ...今日は本当に色んなことがあったな...」
アリス先輩から特大チョコレートケーキをもらい、仁科にはまた襟を引っ張られ、なぜか岬さんの頭を撫でることになり、さらに咲から手紙をもらって泣く。ほんと濃すぎる一日だった。
「でも、まあ楽しかったかな...」
最近俺は彼女たちに振り回される日常を楽しいと思うようになってきた。『お前ちゃんと青春してるじゃないか』と柏木先生に言われたが、この日常も俺の青春の内に含まれるのだろうか。大人になって思い出した時に『良い思い出』として振り返ることができるのだろうか。
今の俺にはまだ分からない。多分大人にならないと分からないものなんだろう。
だから今は精一杯彼女たちと過ごす日常を楽しもう。記憶を失い、思い出を失った俺の側に居てくれる人たちとたくさん思い出を作っていこう。
窓から冬の夜空を見上げつつ、俺はそんなことを考えた。
そして、その日見上げた夜空はいつも見ている夜空よりもなんだか綺麗に見えた。
「どちら様ですか?こんな時間にウチに何か用ですか?」
「げ、亮!?」
「え、咲!?なんでこんなとこにいるんだ!?」
俺はつい先程家の前に着いたのだが、玄関横のポストの前に人影があった。暗くて顔がよく見えなかったのでその人物に声を掛けてみたのだが、なんとその人影の正体は咲だった。もう暗くなっているというのにこんな時間に何をしているのだろうか。
「わ、私もう帰るから!」
「え!?ちょっと待てって!おい!」
咲は俺に会って10秒も経たない内に走ってその場を去ってしまった。マジで何してたんだろあいつ...
先程まで咲がいたポストの方をよく見ると、ポストの扉が開いていた。中には紙袋が入っているようだ。
「そういうことだったのか...」
ポストから紙袋を取り出し、中を確認するとチョコクッキーと手紙が入っていた。さっき俺はこれをポストに入れている最中の咲を偶然見てしまったということだろう。うわ、最悪のタイミングで帰ってきてしまったな...
しかし咲とは幼馴染だが、元日以来あまり話してないしチョコをくれるとは思ってなかった。正直ちょっと驚いている。
それと手紙のことも気になる。ただチョコを渡すだけでなく、手紙とセットで渡してきたのはどんな意図があるのだろうか。
手紙の内容が気になった俺は家に入り、自分の部屋に直行した。
-------------------------
部屋に着いた俺は早速手紙の封を開けてみた。
封の中には想像していたよりもずっと多い文量の手紙が入っていた。一体どんなことが書いてあるんだろう。早速読んでみよう。
『亮へ。まずはチョコを渡すのが遅れてしまってごめんなさい。クッキーを作るのは初めてだったから失敗ばかりでなかなか上手く作ることができなかったの。ごめんね』
え、こいつもしかして今日の放課後までクッキー作ってたんじゃないか?もしそうだとしたら外が暗くなっている時間にクッキーをウチのポストに届けに来たことにも納得がいく。
わざわざ俺のためにそんなことをしてくれてたのか...
でも咲って文章の時と普段話す時で口調が微妙に違うのな...俺咲から『ごめんね』とか言われたことないぞ...
まあいい。とにかく続きを読むとしよう。
『手紙を書いたのは普段亮に直接言えないことを伝えるためなの。長くなるかもしれないけど最後までちゃんと読んでくれたら嬉しいな』
咲が普段俺に言えないこと...?
『私は亮が記憶を失ったって聞いた時とても悲しかった。一緒に仲良く遊んでた時の思い出を私だけ覚えてるっていうのが辛かった』
...それは俺もなんとなく分かっていた。でもいざ言葉にして記されると心にくるものがある。
『でもね、嬉しかったこともあるんだよ。亮は分からないかもしれないけどね、亮の性格とか人間性って記憶を失っても全然変わってないんだよ。出会った時と全然変わってないの。それがとても嬉しかったな。まあ、たまに余計な一言があるっていうのも変わってないんだけどね。うん、そこは直してほしいかな』
はは、良くも悪くも俺は変わってないってことね。
『私は最初は亮が記憶を失ったことを悲しんでばかりいた。でもね、時間が経つにつれてこう思うようになったんだ。【だったら私が今までの思い出を教えてあげればいいじゃん!】って。だからこれからは少しずつ亮に私たちの思い出について話していけたらいいなって思ってる』
咲...そんなことを考えてくれてたのか...
『そしてまた昔みたいに仲良く話せるようになりたいなって思ってるんだ。亮が昔のことを覚えてなかったとしても私の幼馴染は亮だけだから』
え、ちょっと感動してきた...
『だけど最近はあまり話せてないし、話せたとしてもきつい態度をとることが多かったよね。でも別に亮のことが嫌いってわけじゃないの。信じてもらえないかもしれないけど本当なの』
いや、まあ元日の一件以来あんま嫌われてるとは思わなくなってたんだけどな。
『私の性格上、これからも亮にはきつい態度をとっちゃうかもしれない。でも心の中では昔みたいに仲良く話したいって思ってて...つまり何が言いたいかっていうと...別に私は亮のことを嫌ってるわけじゃないからさ、亮も私のことは嫌いにならないでよね!』
はは、こんなに心のこもった手紙をくれる幼馴染を嫌いになるわけがないじゃないか。
『長々と書いてきたけど私が伝えたかったことは以上です。最後まで読んでくれてありがとう!これからもよろしくね! 咲より』
まさか咲がこんな手紙をくれるなんて思ってなかったな...普通に感動したわ...
色んなことが書かれていたが、記憶を無くしても俺は全然変わっていないと言ってくれたことが一番嬉しかった。
正直俺は記憶を無くして以来、ちゃんと『田島亮』として生きることができているのか不安になる時があった。実は周囲の人々は今の自分を認めてくれていないんじゃないかと考えてしまう時もあった。
だから家族以外では最も距離の近い人物である幼馴染に今の自分を肯定してもらえたのがとても嬉しかった。『記憶を失ってても亮が幼馴染であることに変わりはない』という言葉には本当に救われた。
「あ、そういやまだクッキー食ってなかったな...」
手紙ばかり気にしていて咲の手作りクッキーを食べるのを忘れていた。せっかく作ってくれたんだ。ありがたくいただくとしよう。
そう思った俺は紙袋からクッキーを取り出し、1つ口に入れてみた。
「うわ、うめぇ...」
初めての手作りとは思えないほどの味だ。口の中に優しい甘みが広がっていく。あいつ、自分が納得する味になるまで何回も作ったんだろうな...
咲、俺なんかのために頑張ってくれて本当にありがとう...
クッキーを味わいながら心の中で咲に感謝していると、突然俺の部屋の扉が開く音がした。
「兄貴ー!夜ご飯の時間だぞー...ってえ?なんでクッキー食べながら泣いてるの?」
「え...?」
友恵に言われ、自分の目元を触って確認してみたが、確かに涙が出ていた。うわ、俺いつの間に泣いてたんだろ...つーか俺の涙腺ほんと弱いな...
「ねえ、なにかあったの?」
「はは、まあな...」
「まあ落ち着いたらご飯食べに下に降りてきなよ」
友恵はそう言って俺の部屋から出て行った。
妹に泣いてるところ見られちまうとはな...
でもしょうがなくね? あんな内容の手紙もらうだけでも感動モノなのにさ、それに加えてあのクッキーを味わって『咲が俺のために一生懸命作ってくれたんだよな...』とか考えたら感極まっちゃったんだよ。はは、俺の涙腺ほんとガバガバだな。
「あ、腹減ってきた...」
なんか色々考えてたら急に空腹感に襲われた。まあ今日色々あったからな...そろそろ飯食いに行くか...
そして俺は夕食をとるために家族が待つ一階へ向かった。
--------------------------
夕食後、部屋に戻ると咲からメッセージが来ていた。
『手紙読んだ?』
まあ結構濃い内容の手紙だったもんな。そりゃ俺が読んだかどうか気になるよな。
『ああ、読んだぞ』
そして俺がメッセージを送ると咲からの返信はすぐに来た。
『そうなんだ。なら良かった』
『なぁ咲』
『何?』
『今から電話かけてもいいか?』
『ええ!?急にどうしたのよ!?』
実は俺には咲に直接言葉で伝えたいことがある。咲からメッセージが来なくても元々こっちから電話する予定だった。
『やっぱ夜遅いし電話はだめか?』
『いや、そういうわけじゃないけど...』
『じゃあ今から電話かけるわ』
『うん、分かった...』
よし、咲の了承も得たことだし電話するか。
意を決して俺が発信ボタンを押すと咲はすぐに電話に出た。
「も、もしもし...」
「夜遅くに電話してごめんな」
「それは別にいいんだけどこんな時間に何の用?」
「いや、なんか手紙を読んだらさ、直接お前に言葉で伝えたいことができたんだよ」
「私に伝えたいこと...?」
「ああ、そうだ。まあ別に大したことじゃないんだけどな」
「...それで私に伝えたいことって何?」
「俺がお前を嫌いになることなんて絶対無いから余計な心配するなってこと」
「えっ!?」
手紙の内容から察するに咲は俺から嫌われているのではないかと心配しているようだった。だから嫌ってなんかいないということを直接伝えて咲を安心させたかったのだ。
「...」
なぜだろう。咲が急に黙り込んでしまった。
「おーい咲ちゃーん、起きてるかー?」
「う、うるさいわね!起きてるわよ!亮がいきなり変なこと言うから驚いただけよ!」
「そうやってツンツンしてても実は俺と昔みたいに仲良く話したいと思ってるんだろ?大丈夫。全部分かってるから心配するな」
「ちょ、亮!手紙に書いてたことを直接口に出すのはやめてよ!そういうのがアンタの余計な一言なのよ!」
「別に俺と仲良くしたいってことを否定はしないんだな」
「そ、それは...あー、もう!うるさい!私もう寝るから!それじゃあ、おやすみ!」
そう言い残して咲は電話を切ってしまった。やっぱ普通に話す時は手紙の時と違ってツンツンしてたな...
でも手紙を読んで咲の本心を知ったらなんだかツンツンしてるアイツと話すのも楽しくなってきたな。
「はぁ...今日は本当に色んなことがあったな...」
アリス先輩から特大チョコレートケーキをもらい、仁科にはまた襟を引っ張られ、なぜか岬さんの頭を撫でることになり、さらに咲から手紙をもらって泣く。ほんと濃すぎる一日だった。
「でも、まあ楽しかったかな...」
最近俺は彼女たちに振り回される日常を楽しいと思うようになってきた。『お前ちゃんと青春してるじゃないか』と柏木先生に言われたが、この日常も俺の青春の内に含まれるのだろうか。大人になって思い出した時に『良い思い出』として振り返ることができるのだろうか。
今の俺にはまだ分からない。多分大人にならないと分からないものなんだろう。
だから今は精一杯彼女たちと過ごす日常を楽しもう。記憶を失い、思い出を失った俺の側に居てくれる人たちとたくさん思い出を作っていこう。
窓から冬の夜空を見上げつつ、俺はそんなことを考えた。
そして、その日見上げた夜空はいつも見ている夜空よりもなんだか綺麗に見えた。