-side 田島亮-
本日は1月10日。3学期3日目である。まだまだ冬真っ最中であり、朝の登校は本当に寒くて苦痛だ。
だがしかし。今日俺が感じているのは寒さだけが原因ではない。
そう。俺は今まさに周囲の学生から注目されながら通学路を歩いているところなのだ。まあ、つまり.......『多くの人が俺へ向けている視線』というのがもう一つの苦痛の原因なのである。
まあ、普通はただ登校しているだけの学生がこんなに注目を集めることなんてないんだよ。なんてったって、俺は平々凡々の男子高校生だからな。
じゃあ、どうしてそんな俺が注目されているかというと......
「ダーリン、何か喋ってよー! ねぇー、ねぇーってばー!」
「俺の頰を指で突くのはやめて下さい...」
あー、はい。この金髪ハーフの先輩がさっきから俺の右腕に絡みついて、ちょっかいを出してきているせいですね。おかげで目立ちに目立ちまくっていますね。なぜか朝家を出たらこの人が待ち伏せしてたんだけど、どうしてウチの住所が割れてるんですかね。
「せ、先輩......そろそろ俺の右腕から離れてくれませんか......」
「ん......? あ、右腕が疲れたから今度は左腕に抱きつけってこと?」
「いや、そういう意味じゃないです......」
「え? じゃあどういう意味?」
「いや、俺から離れてほしいって意味ですよ......その、胸とか当たっちゃってますし......俺も一応男だから、そういうのを意識せざるを得ないというかなんというか......」
つーか、朝からずっと心臓に悪過ぎるんだよ。胸の柔らかい感触とかやばいし、サラサラの金髪からシャンプーの良い匂いとかするし......あのー、先輩? もしかして朝から風呂に入ったんですか? 童貞の俺には色々刺激が強すぎるんですが。
「え、ダーリンって私のことを意識してるの? やったぁ! それって私の狙い通りじゃない! 胸を押し付けてるのはダーリンに意識してもらうためにわざとやってることだし、私はそれを気にして恥ずかしがったりしないし! オールオッケーじゃない!」
いや、俺が恥ずかしいからアウトなんですが!?
「あー、じゃあもういいです......なら、抱きついたままでもいいんでいくつか質問させてください......」
「ん? 質問?」
「そ、その......昨日の今日で、この俺に対する態度の変わり方は一体何なんですか?」
昨日は説教した後に突然先輩が抱きついてきて驚いたが、あの直後に予鈴が鳴ると、渋沢先輩はダッシュで部室を出て行ってしまったのだ。学年が違う俺たちの縁なんてそれきりだと思っていたのだが......
「もうっ、わかってるくせに意地悪なダーリン♪ そんなの、昨日私がダーリンにフォーリンラブしたからに決まってるじゃない! きゃっ、恥ずかしい! 言っちゃったっ!」
いや、全然恥ずかしがってるようには見えないんですが。
「あ、あのー、先輩? 昨日は説教しただけだし、そもそも俺たちって会ったばかりですよね? だから、その......それって勘違いじゃないんですか?」
「え? なにそれ。勘違いなんかじゃないわよ。人を好きになるのに一緒に過ごした時間の長さなんて関係ないわ。一瞬で落ちる恋だってあるのよ。君を好きな気持ちに偽りなんて無い。絶対に」
「! そ、そうですか......」
いや、いきなり真面目なトーンでそんなこと言わんで下さいよ。びっくりするじゃないっすか。反応に困るし、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
「ふふ、ダーリン顔赤くなってる! かわいい!」
「あー、もう! うるさいですね! 俺は女の子から面と向かって"好き"とか言われたことないんですよ! そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか!! 先輩は自分が今何を言ったか分かってるんですか!?」
「......え? 私って好きとか言っちゃってた......?」
「へ? いや、まあ、はい。言っちゃってましたね」
なぜだろう。渋沢先輩が急に顔を真っ赤にして大人しくなってしまったんだが。
「え? 先輩って自分が言ったことを自分で覚えてないんですか?」
「う、うぅ......勢いに任せて私はそんなことを......は、恥ずかしい......」
「......え? こんなことをしておいて今さら何を恥ずかしがるっていうんです?」
「ああ、もうダーリンうるさい! も、もう学校見えてきたし、私先に行くから! ダーリンなんて置いて行ってやるんだから!!」
「え!? ちょっ、先輩!?」
すると渋沢先輩は俺の腕から離れ、全力疾走で学校の中へと入っていってしまった。
なんつーか......やっぱ嵐みたいな人だな......
------------------------
-side 岬京香-
まだまだ寒さが残る一月末のある日の昼休み。私はいつも通り教室で自分の悩みについて一人で考えていた。
ちなみにその悩みとは好きな人と全然会話できていないということ。この悩みは最近起きた『とある出来事』をきっかけにどんどん大きくなっているところだ。
私の悩みを膨らませた出来事。それは田島くんが二年生の渋沢アリス先輩と付き合っているという噂が校内で広がったこと。なんでもここ2週間くらいは、2人で時々腕を組んで一緒に登校しているのだとか。
まあ田島くんにメッセージで噂の真相を確認してみたら、『先輩が毎日付きまとってきてるだけだよ!』っていう返事が来たから、付き合ってはいないみたいなんだけどね......
うーん、でも渋沢先輩の方は多分田島くんのことが好きなんでしょうね。好きじゃなかったら田島くんに付きまとうことなんてきっとしないだろうし。
うわぁ、ライバルが増えたのかぁ......
今のところ市村さんは確実にライバルよね。田島くんはなぜか気づいてないみたいだけど、中学の時から教室でずっと田島くんのこと見てるし。それに初詣の件もあるし。
あとは、よく田島くんと喋ってる仁科さんもライバルの可能性があるのよね......そこにハーフ美人の渋沢先輩も加わるなんて......こんな美人揃いの中に私の入る隙なんてあるのかしら...
と、まあそういうわけで焦りと不安を覚えた私は、どんどん悩みを膨らませていって今に至るというわけです。
もう3学期に入って3週目。1月も終わろうとしているというのに私は1度も田島くんと直接お話しできていない。メッセージのやりとりをなんとか続けるので精一杯だ。
-------------------------
【岬京香:田島くーん! 今日の数学の授業むずかしかったよぉ(>_<)』
【田島亮:ふむふむ、なるほど。学年1位の岬さんが難しいって感じるなら、安心だね】
【岬京香:えぇー! なんで!?】
【田島亮:あー、いや、俺その授業寝てたからさ。そんなに難しいなら起きててもどうせ理解できてなかったよね。うん、安心した安心した】
【岬京香:いやいや! ちゃんと授業聞こうよ笑笑】
------------------------
と、こんな風に、私たちのやりとりはいつも中身の無くてくだらない話。でもそれが楽しくて、そんな話が出来るのが嬉しくて......私にとってはかけがえのない、とっても大切な時間なの。
でも......最近はそれだけじゃ満足できなくなってしまった。
田島くんの顔を見て直接話してみたい。心の距離だけじゃなくて、物理的な距離も近づけたい。田島くんにもっともっと近づきたい。
恋心を自覚してからというものの、私はそんなことを思うようになってしまった。
でも......いずれは学校で会話したいけど......私の性格上、明日からすぐに学校で話すことなんて出来ない。だから、この前家で食事会をした時みたいに、二人で話せる状況を作らないと話せないと思う。
でもどうやったらそんな状況を作れるんだろう......この前は『助けてくれたお礼をしたい』って理由でウチに誘えたけど、今は何も誘う理由がないし......
理由も無く田島くんを誘うことなんて私には出来ないのよ。だって私の好意が悟られるかもしれないし、それで私の好意に気づいちゃったら田島くんは私への接し方を変えてしまうかもしれないじゃない。私は......臆病だからそれがとても怖いの。
......あ! そうだ! いいことを思いついたわ! そういえば私の知り合いには田島くんの身内がいるじゃない!
そして、ある考えが浮かんだ私はカバンから携帯を出して友恵ちゃんにメッセージを送ることにした。
【岬京香: 友恵ちゃん久しぶり! 急な話になるんだけど今度休みの日に一緒に出かけない? 田島くんも誘って3人で!】
ふふ、将を射んとすればまず馬を射よ。異性を攻略するにはまず身内から攻略するのが鉄則よね!
本日は1月10日。3学期3日目である。まだまだ冬真っ最中であり、朝の登校は本当に寒くて苦痛だ。
だがしかし。今日俺が感じているのは寒さだけが原因ではない。
そう。俺は今まさに周囲の学生から注目されながら通学路を歩いているところなのだ。まあ、つまり.......『多くの人が俺へ向けている視線』というのがもう一つの苦痛の原因なのである。
まあ、普通はただ登校しているだけの学生がこんなに注目を集めることなんてないんだよ。なんてったって、俺は平々凡々の男子高校生だからな。
じゃあ、どうしてそんな俺が注目されているかというと......
「ダーリン、何か喋ってよー! ねぇー、ねぇーってばー!」
「俺の頰を指で突くのはやめて下さい...」
あー、はい。この金髪ハーフの先輩がさっきから俺の右腕に絡みついて、ちょっかいを出してきているせいですね。おかげで目立ちに目立ちまくっていますね。なぜか朝家を出たらこの人が待ち伏せしてたんだけど、どうしてウチの住所が割れてるんですかね。
「せ、先輩......そろそろ俺の右腕から離れてくれませんか......」
「ん......? あ、右腕が疲れたから今度は左腕に抱きつけってこと?」
「いや、そういう意味じゃないです......」
「え? じゃあどういう意味?」
「いや、俺から離れてほしいって意味ですよ......その、胸とか当たっちゃってますし......俺も一応男だから、そういうのを意識せざるを得ないというかなんというか......」
つーか、朝からずっと心臓に悪過ぎるんだよ。胸の柔らかい感触とかやばいし、サラサラの金髪からシャンプーの良い匂いとかするし......あのー、先輩? もしかして朝から風呂に入ったんですか? 童貞の俺には色々刺激が強すぎるんですが。
「え、ダーリンって私のことを意識してるの? やったぁ! それって私の狙い通りじゃない! 胸を押し付けてるのはダーリンに意識してもらうためにわざとやってることだし、私はそれを気にして恥ずかしがったりしないし! オールオッケーじゃない!」
いや、俺が恥ずかしいからアウトなんですが!?
「あー、じゃあもういいです......なら、抱きついたままでもいいんでいくつか質問させてください......」
「ん? 質問?」
「そ、その......昨日の今日で、この俺に対する態度の変わり方は一体何なんですか?」
昨日は説教した後に突然先輩が抱きついてきて驚いたが、あの直後に予鈴が鳴ると、渋沢先輩はダッシュで部室を出て行ってしまったのだ。学年が違う俺たちの縁なんてそれきりだと思っていたのだが......
「もうっ、わかってるくせに意地悪なダーリン♪ そんなの、昨日私がダーリンにフォーリンラブしたからに決まってるじゃない! きゃっ、恥ずかしい! 言っちゃったっ!」
いや、全然恥ずかしがってるようには見えないんですが。
「あ、あのー、先輩? 昨日は説教しただけだし、そもそも俺たちって会ったばかりですよね? だから、その......それって勘違いじゃないんですか?」
「え? なにそれ。勘違いなんかじゃないわよ。人を好きになるのに一緒に過ごした時間の長さなんて関係ないわ。一瞬で落ちる恋だってあるのよ。君を好きな気持ちに偽りなんて無い。絶対に」
「! そ、そうですか......」
いや、いきなり真面目なトーンでそんなこと言わんで下さいよ。びっくりするじゃないっすか。反応に困るし、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
「ふふ、ダーリン顔赤くなってる! かわいい!」
「あー、もう! うるさいですね! 俺は女の子から面と向かって"好き"とか言われたことないんですよ! そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか!! 先輩は自分が今何を言ったか分かってるんですか!?」
「......え? 私って好きとか言っちゃってた......?」
「へ? いや、まあ、はい。言っちゃってましたね」
なぜだろう。渋沢先輩が急に顔を真っ赤にして大人しくなってしまったんだが。
「え? 先輩って自分が言ったことを自分で覚えてないんですか?」
「う、うぅ......勢いに任せて私はそんなことを......は、恥ずかしい......」
「......え? こんなことをしておいて今さら何を恥ずかしがるっていうんです?」
「ああ、もうダーリンうるさい! も、もう学校見えてきたし、私先に行くから! ダーリンなんて置いて行ってやるんだから!!」
「え!? ちょっ、先輩!?」
すると渋沢先輩は俺の腕から離れ、全力疾走で学校の中へと入っていってしまった。
なんつーか......やっぱ嵐みたいな人だな......
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-side 岬京香-
まだまだ寒さが残る一月末のある日の昼休み。私はいつも通り教室で自分の悩みについて一人で考えていた。
ちなみにその悩みとは好きな人と全然会話できていないということ。この悩みは最近起きた『とある出来事』をきっかけにどんどん大きくなっているところだ。
私の悩みを膨らませた出来事。それは田島くんが二年生の渋沢アリス先輩と付き合っているという噂が校内で広がったこと。なんでもここ2週間くらいは、2人で時々腕を組んで一緒に登校しているのだとか。
まあ田島くんにメッセージで噂の真相を確認してみたら、『先輩が毎日付きまとってきてるだけだよ!』っていう返事が来たから、付き合ってはいないみたいなんだけどね......
うーん、でも渋沢先輩の方は多分田島くんのことが好きなんでしょうね。好きじゃなかったら田島くんに付きまとうことなんてきっとしないだろうし。
うわぁ、ライバルが増えたのかぁ......
今のところ市村さんは確実にライバルよね。田島くんはなぜか気づいてないみたいだけど、中学の時から教室でずっと田島くんのこと見てるし。それに初詣の件もあるし。
あとは、よく田島くんと喋ってる仁科さんもライバルの可能性があるのよね......そこにハーフ美人の渋沢先輩も加わるなんて......こんな美人揃いの中に私の入る隙なんてあるのかしら...
と、まあそういうわけで焦りと不安を覚えた私は、どんどん悩みを膨らませていって今に至るというわけです。
もう3学期に入って3週目。1月も終わろうとしているというのに私は1度も田島くんと直接お話しできていない。メッセージのやりとりをなんとか続けるので精一杯だ。
-------------------------
【岬京香:田島くーん! 今日の数学の授業むずかしかったよぉ(>_<)』
【田島亮:ふむふむ、なるほど。学年1位の岬さんが難しいって感じるなら、安心だね】
【岬京香:えぇー! なんで!?】
【田島亮:あー、いや、俺その授業寝てたからさ。そんなに難しいなら起きててもどうせ理解できてなかったよね。うん、安心した安心した】
【岬京香:いやいや! ちゃんと授業聞こうよ笑笑】
------------------------
と、こんな風に、私たちのやりとりはいつも中身の無くてくだらない話。でもそれが楽しくて、そんな話が出来るのが嬉しくて......私にとってはかけがえのない、とっても大切な時間なの。
でも......最近はそれだけじゃ満足できなくなってしまった。
田島くんの顔を見て直接話してみたい。心の距離だけじゃなくて、物理的な距離も近づけたい。田島くんにもっともっと近づきたい。
恋心を自覚してからというものの、私はそんなことを思うようになってしまった。
でも......いずれは学校で会話したいけど......私の性格上、明日からすぐに学校で話すことなんて出来ない。だから、この前家で食事会をした時みたいに、二人で話せる状況を作らないと話せないと思う。
でもどうやったらそんな状況を作れるんだろう......この前は『助けてくれたお礼をしたい』って理由でウチに誘えたけど、今は何も誘う理由がないし......
理由も無く田島くんを誘うことなんて私には出来ないのよ。だって私の好意が悟られるかもしれないし、それで私の好意に気づいちゃったら田島くんは私への接し方を変えてしまうかもしれないじゃない。私は......臆病だからそれがとても怖いの。
......あ! そうだ! いいことを思いついたわ! そういえば私の知り合いには田島くんの身内がいるじゃない!
そして、ある考えが浮かんだ私はカバンから携帯を出して友恵ちゃんにメッセージを送ることにした。
【岬京香: 友恵ちゃん久しぶり! 急な話になるんだけど今度休みの日に一緒に出かけない? 田島くんも誘って3人で!】
ふふ、将を射んとすればまず馬を射よ。異性を攻略するにはまず身内から攻略するのが鉄則よね!