-side 田島亮-

 オッス、オラ田島亮! 突然だけんど、オラは今、咲と2人でいるところをクラスメイトに見られて色々と誤解されちまったぞぉ! つーわけで、今からこの状況を説明しなきゃいけねぇんだぁ! まあ全然でぇじょうぶな状況じゃないけんど、オラ、なんだかワクワクしてきたぞぉ!(ヤケクソ)

 ......さて、茶番はこれくらいにして、弁明を始めるするか。

「あのな、仁科。俺と咲は別にそういう関係では......ヒッ!?」

 まずは咲との関係が恋人同士でないことを説明しようとした俺だったが.......なぜか咲から鋭い眼光を向けられたので、思わず怯んでしまった。

 いや、あのー、咲さん? 急に睨むのやめてくんない? いや、超怖いんだけど。『ヒッ!?』とか言っちゃったんだけど。

「た、田島! 何も言わなくていいよ! はは、2人で初詣に来てるってことはさ、もうそういう事だよね!」

 一方、こちらは俺と咲の関係を完全に誤解してる様子の仁科。状況はどんどんカオスになっていくばかりである。

「ねぇ、田島! そ、そそそそういうことなんだよね!?」

「いや、だから.......別にそういうわけじゃ.......」

「あ、あはは! じゃあ私は2人の邪魔にならないように別のとこに行くね! バイバイ!」

「あっ、ちょっと待てよ仁科! 誤解だ! お前は誤解をしている! 頼むから説明させてくれ! おい、待てって!」

 しかし、そんな俺の声は届かず、仁科は大きな勘違いをしたまま猛ダッシュでその場を去ってしまった。

「ちょっと待ってよ唯ちゃーん!」

「置いていかないでー!」

 そして仁科の後に続いてクラスメイト女子2人もログアウト。

 チ、チクショウ.......勘違いされたままだったら咲が迷惑だろうし、ここで誤解を解いておきたかったんだけどな......まあ、今さら嘆いていても仕方ないか。とりあえず帰ったら仁科にはメッセージを送っておくとしよう。

 っと、いかんいかん。この場には咲も居るんだった。まずは咲との初詣を楽しむのが最優先だよな。

「えっと.......じゃあ咲、これからどうする? とりあえずおみくじ買いに行くか?」

「いや......おみくじはもういい......もう帰りたい.......」

「え、いや、あの.......え? まだ神社で何もしてなくね!?」

「.......ほら、帰るわよ」

 なぜかとってもご機嫌ナナメな様子の咲さん。俺に一方的にそう告げると、神社の出口へと向かい始めてしまった。

「.......」

 さて、この状況でワタクシは一体どういう対応をするのが正解なのでしょうか。


-side 市村咲- 

 亮と共に人混みを歩く。神社で特に何をしたわけでもなく帰路に着く。

「.......」

「.......」

 沈黙が辛い。でも、こうなったのは私のせいだ。亮が仁科さんに私達が恋人同士でないことを説明しようとしたのを見た時になんだか腹が立ってしまって。そしてその苛立った気分を亮にぶつけたら.......こんな状況になってしまった。

 そ、そりゃあ私たちが恋人同士ではないというのは事実だけど.......でも恋人同士ってことを否定されるのがとても嫌だったのよ。なんだか私の好意を亮に拒絶されたような気がして悲しくて......まあこんなの私のワガママでしかないっていうのは分かってるんだけどね.......

「痛っ.......」

 突然右足の親指に激痛が走る。どうやら慣れていない下駄を履いていたせいで靴擦れしてしまったみたいだ。

 はぁ.......なんな結局今日も上手くいかないことばっかりで嫌になっちゃう.......

「咲? どうした?」

「い、いや、なんでもないわよ。ほら、早く帰りましょ」

「.......いや、足の指から血が出てるように見えるんだけども」

「だ、大丈夫よこれくらい......」

「いや、全然大丈夫じゃないだろ。これじゃ歩けねえだろうしな。よし、じゃあここからは俺が咲をおぶってやるよ」

「え!?」

「ほら、いいから早く乗れって」

 すると亮は私の方に背を向けて体を屈め、人を背負う体勢をとった。

「ほら、早く乗れよ」

「で、でも.......さすがにそこまでしてもらわなくても.......」

「まあまあ、遠慮すんなって。痛々しくて見てられねぇんだよ。さ、早く乗ってくれ」

「え、えっと.......じ、じゃあ、お願いします...」

 そして観念した私は亮の厚意に甘えて彼の背中に乗ってみる。

「うっわ、思ったより咲って軽いんだな。はは、ちょっと助かったかも」

「そ、それは良かったわね.......」

 あ、ちょっと待って。コレヤバイかも。密着して亮の体温を感じるんだけど。なんだか背中が思っていたよりもあったかくて、大きくて.......

 って、ちょっと待って! コレダメかも! なんかドキドキが止まらないんだけど!

「うし、じゃあ出発進行」

 しかし、亮はそんなドキマギしている私に気づくこともなく私をおぶったまま歩き始める。

 え、どうしよう.......これだけ密着してたら私の心臓の音が亮に伝わったりして.......それでもし亮がそれに気づいちゃったら......

 あー、もう、やっぱりダメ! 恥ずかし過ぎて頭がどうにかなっちゃいそう!!

「な、なあ咲」

「! な、なに!?」

「え、えっと.......咲が怒ってるのって多分俺が原因だよな? だから、その、俺のどういうところがお前を怒らせたか教えてくれないかなー、と思いまして.......」

「そ、それは.......」

 ああ、そうか。今回のことに関しては私が勝手に不機嫌になっているだけで亮は何も悪くないのに、亮は自分の態度が私を怒らせたと思っちゃったか.......

 うわぁ。なんか申し訳ないことしちゃったなぁ.......自己嫌悪が止まらないよ.......

「ほ、ほら! 俺ってバカだからさ! 気づかないうちにお前に余計なこと言って怒らせてるのかもしれないじゃん? だからその.......もし俺の言葉で咲が気分を害したなら、謝らせてほしなー、と思って」

 ああ、こういう所はホントに変わっていない。亮は確かに昔から余計な一言は多いけど、何かあったらこうして私と真剣に向き合ってくれる。たとえ自分に落ち度が無くても、悪いところがあるなら直したいと言ってくれるんだ。やっぱり.......記憶を失っても亮は亮なんだね。

 .......ああ、そっか。

 ーー私は昔から亮のそういうところが好きなんだ。


 その不器用な優しさは出会った頃と全然変わってなくて。こうして亮と話している時に高鳴る胸の鼓動も全然変わってなくて。なんだか何もかもが昔と全然変わっていない気がして。

「ふふっ」

 私はなんだかそのことがおかしくて、思わず笑ってしまった。

「あのー、咲さん? なんで笑ってるんですかね?」

「ふふっ、ヒミツ」

「え、えっと、まあ.......よくわからんけど咲さんの機嫌が直ったみたいで何よりっす。ほら、家に着いたぞ。部屋までは自分で行けそうか?」

「うん、ここで降ろしていいよ。部屋までは自分で行けると思う」

「あい、分かった」

 すると亮はゆっくり私を背中から降ろしてくれた。

 ......ふふ、なんかちょっとだけ名残惜しいかも。

「ここまで送ってくれてありがとうね、亮。それと.......私から誘ったのに初詣台無しにしてホントにごめん」

「い、いや、お前の機嫌が直ったなら、まあ、それで十分だよ.......」

「ん? 亮? なんで私から顔を背けたまま話すの?」

 亮はなぜかこっちを見て話してくれない。

「ねぇ、ちょっと! 亮ってば! なんでこっち向いてくれないのよ!」

 そして亮の様子が気になった私は思い切って彼の顔を覗き込んでみた。

「あ、おい! いきなりこっち見んなって!」

「え、亮.......? なんで顔が赤くなってるの...?」

「い、いや、これはだな.......」

 なぜか亮は頰を真っ赤に染めている。

「亮...?」

「あぁー! わかったよ! 白状するよ! 白状すればいいんだろ!? ああ、そうだよ! 俺は同年代の女の子をおぶるのなんて初めてだったんだよ! だから色々意識しちゃったんだよ! はい! 大変申し訳ありませんでした!」

「.......ふふっ、あはははは!」

「あー、こらそこ! 笑うところじゃないからな!?」

「うふふ.......亮も男の子なんだね」

「わ、悪かったな.......つーか足怪我してるんだから、咲はさっさと帰れよ.......」

「はいはい、帰ります帰りますー! じゃあまたね、亮!」

 そして亮の照れ顔を見られて満足した私は、少し浮ついた気分で家の中へ入った。


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 足に痛みはあったものの、なんとか2階の自分の部屋に到着。

 ......そしてハイテンションになった私は思いっきりベッドにダイブして枕に顔を押し付けてみる。

「〜〜〜〜!! やった! 帰り際は亮と昔みたいに話せたぁーー!」

 亮が自分のことを女の子として見てくれたのが嬉しくてつい足をバタバタさせてしまう私。また仲が良い幼馴染に戻れそうな気がして思わずニヤニヤが止まらない。

 いやー、それにしても友恵ちゃんのアドバイスは的確だったわね。多分友恵ちゃんに言われなかったら、恥ずかしいのを我慢して素直になるなんて出来なかったもの。それに着物で行ったのも結果的には正解だったわ。だって下駄を履いてなかったら亮におぶってもらえなかったし。

 でも神社での行動は失敗だったわね......まだどうしてもきつく当たってしまう時があるわ。うん、それは今回の反省点かも。

 でも、まあ今回の初詣は一歩前進と言っていいんじゃないかしら! うん! この調子で行けばもっと亮に近づけるはずよね!

 

-side 田島亮-

「なんか、咲があんな風に笑うのって初めて見たな.......」

 コタツに肩まで入り、帰り際に咲が見せた笑顔を思い出す。今までは咲に睨まれたことはあっても、笑いかけられたことなんて無かったものだから、どうもアイツの笑顔が妙に印象に残ってしまったのである。

 あ、ちなみにおぶってた時に背中で感じた控えめな胸の感触も印象に残ってるぞ。うん、貧乳も悪くないな。俺は全人類の胸部の味方だ。大きいのも小さいのもバッチコイ。

 つーか、咲って普通にかわいいんだから、いつもああいう感じで笑ってればいいのにな。どうして態度をコロコロ変えちゃうんだろ。ホントもったいない。

 それと.......普段と様子が違う咲を見てたら、なんか、こう、懐かしい感覚になったんだよな。俺の記憶なんてせいぜい4ヶ月分しかないはずなのによ。懐かしく思う出来事なんてまだ無いはずなんだけどな。

 はは、もしかしたら記憶喪失前に咲と似たようなやりとりをしてたりして。

 .......いや、そんなはずないか。

「はぁ、なんか疲れたな.......」

 まあ、冬休みのほとんどを家に引きこもって過ごしていたし無理もないだろう。外を歩くのなんて久しぶりだったし、それに加えて咲をおぶって帰ってきたんだからな。疲れて当然だ。

「よし。疲れたし、昼寝でもしますか」

 しかしそう宣言した瞬間、コタツの上に置いている携帯が振動。

 .......え? そういや、咲が来たのも俺が寝ようとした時じゃなかったっけ? なんで俺が寝ようとすると色々な事が起きるわけ? 神様的には俺が寝るのは罪なわけ?

 と、そんな自分の不運さに苛立ちながらスマホを乱暴に手に取ると、通知画面には仁科唯から届いたメッセージが表示されていた。

『ねぇ、市村さんと田島は付き合ってるって認識でOK?』

 いや、OKじゃねえっつの。

 はぁ、そういえば仁科とら神社で鉢合わせてたんだったな......完全に忘れてたわ。

『いや、別に俺と咲は付き合ってるわけではないぞ。まあ、その辺は次学校で会った時に詳しく説明するわ。だからお前はこれ以上変な勘違いはするんじゃない』

 と、まあ送信内容はこんな感じで良いだろう。

『だ、だよね! やっぱり2人は恋人同士じゃないよね! だって田島があんなかわいい子と付き合えるわけないもんね! うん分かった! それじゃ、また学校で!』

 オイオイ、なんて失礼な子なんだ。別に俺はスペックが低いわけじゃないぞ。俺ならかわいい子とも付き合えるはずだ。現に俺のスペックは咲と釣り合って.......ないですね。はい、すいませんでした。仁科さんが正しかったですね。

 まあこれで仁科の誤解問題は解決だ。やっと寝れるな...

 と、思って目を閉じようとした時だった。

 ブブブ、ブブブ.......

 またバイブ音である。

 え、なに? このスマホは俺に恨みでもあるわけ? いい加減俺を寝かせてくんない? 平日の朝はいくらアラームかけても俺を起こしてくれない癖に、こういう時だけ働くの、マジでやめてくんない?

 と、心の中で文句を言いつつも、スマホを手に取って通知画面を確認。するとそこには『岬京香:新着メッセージ1件』という通知が表示されていた。一体どんな内容のメッセージなのだろうか。早速確認してみるとしよう。

 そして、メッセージアプリを開いて表示されたメッセージがこちら。
 

『ねぇ、田島くんって市村さんとどういう関係なの?』

 .......え? いや、あの......え?




 なんで岬さんまでそんなこと聞いちゃうの!?