-side 田島亮-

「ねぇねぇ、田島! 1ヶ月後の期末テストで点数勝負しよーよ! 勝った方が負けた方の言うことを何でも聞くって条件でさ!!」

 岬家を訪れた翌日の朝。登校して席に着くと、隣の席の仁科がいきなり勝負をしかけてきた。この子は一体どこのポ◯モントレーナーなのだろうか。

「いや、あのー、仁科さん? 急にどうしたんですかね?」

「え、えっと、ほら! 私達って特待生だし、結構バカじゃん? だからテストで競争したら、お互い点数が上がるんじゃないかなー、って思って!」

「いや、お前って駅伝で結果残してるらしいし、別に点数を上げる必要もないんじゃないか? それに俺は放課後に毎日補習受けることになってるから、お前よりは良い点を取れる思うぞ?」

「うっ、そ、それは......」

 あれれ、どうしたんだろう。なんかよく分からんけど仁科が下を向いて黙り込んじゃったんだけど。

 え、なんなの? この子ってそんなに俺と勝負したいの?

「うぅ......や、やっぱいきなりテスト勝負なんておかしかったよね.....なんか、ごめんね......」

 ......オイ、お前。それはズルいぞ。いきなりシュンとするのは反則だろ。なんかメチャクチャ断りづらくなってきたじゃねぇか。

「......ま、まあいい。受けて立とうじゃないか」

 そして気分が沈んでいる仁科を見ていられなくなった俺は、テスト勝負の申し込みを渋々承諾した。

「やったぁ! よし、決まりね! いいわね? 負けた方は言うこと何でも聞くんだからね!」

 俺の返答を聞いた仁科は、目をキラキラさせて喜んでいる。

 ......なんだよ、ちょっと子供みたいでかわいいじゃねえか。

 つーか、"負けた方は言うことを聞く"ってのを強調するのはなんでなんだ? よくよく考えてみれば、勝負に勝って女の子に言うことを聞かせるのも、勝負に負けて女の子に命令されるのも俺にとってはご褒美でしかない気がするんだが。この勝負、俺のリスクが全く無い気がするんだが。

 うむ、まあ意識してテスト対策をしなくても仁科には勝てるだろう。この子は駅伝部の練習で忙しいし、それに加えて俺は毎日補習を受けているからな。負ける要素が無い。

 さあて、テストが終わったらコイツにどんな命令をしてやろうかな、ふっふっふ。

 そして特にこの勝負のことを深く考えなかった俺は、期末テストまでの1ヶ月間を大して勉強することもなく過ごした。


-side 仁科唯-

 ふっふっふ、田島に勝負を受けさせることができたわ。これで計画第1段階は完了ね。

 うーん、でも田島が補習を受けているのは誤算だったわね。今まで田島にだけは点数で負けたことがなかったから今回も余裕で勝てると思ってたんだけど......

 まあ、いいわ。それなら私がいつもより勉強をすればいいだけのことよ。部活は忙しいけど、帰ってから家で集中して勉強をすればきっと田島にも勝てるはず......!

 そして、どうしてもこの勝負に勝ちたかった私は、部活と睡眠以外の時間を全て勉強時間に当てて、テストまでの1ヶ月間を過ごしたのであった。


-side 田島亮-

 仁科の宣戦布告から約1ヶ月後。本日は期末テストの日である。

 もう12月だということもあり、冬真っ盛り。教室の中もバカみたいに寒いし、正直、こんな環境でテストを受けるなんて憂鬱でしかない。

 だが、しかし。隣の席の女はやる気に満ちているようだ。

「ふっふっふ。田島、ついにこの日が来たわね。私、絶対負けないんだから」

「はいはい、分かった分かった。お前のやる気はよく分かったからさ、そろそろ俺と喋るのをやめて前を向きなって。テストが始まるからよ」

「もう、なによ! 田島のくせにスカしちゃって!」

 すると、俺に軽くあしらわれた仁科は頰をぷくっと膨らませて前を向いた。

「よし、そろそろ時間だな。では問題冊子と回答用紙を配る。合図をするまでは問題冊子は開けないように」

 そしてついにテスト開始時刻になり、柏木先生の指示が教室に響き渡る。

「......テスト開始!」

 こうして期末テストが始まり、俺たちはこの日から3日間テストと戦い続けたのであった。



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 本日は12月20日。二学期の終業式の日であり、同時に期末テストの結果発表の日でもある。

 そう。天明高校は終業式の日に玄関で生徒全員の期末テストの順位を掲示するため、天明高校の学生は今日登校するのと同時に、学年全員の期末テストの順位を知ることになるのだ。

 というわけでいつものように登校した俺は現在、玄関で必死こいて自分の名前と順位を探しているところである。

「......あ、俺の名前あった」

 掲示の中から自分の名前を発見。俺のテスト成績は270人中220位であった。

 うん、まあ俺にしては上出来の方だろ。多分補習のおかげだろうな。俺が駅伝部にいるころは学年最下位になったこともあるって柏木ちゃんが言ってたからな。下に50人居るなら、まあ十分だ。

 よし、朝のHRまで時間もあることだし、他の奴らの順位も見てみるか。

 まずは翔の順位を見てみよう。えーっと、新島翔......新島翔......あ、あった。って、うっわ。アイツ、270人中260位かよ。やっぱ俺と一緒にバカ仲間をやってたのって本当だったんだな......

 うーん、じゃあ次は咲の順位でも見てみるか......お、あった。すげえな、270人中33位じゃねぇか。アイツとは家もすぐ隣だし、今度ウチで勉強を教えてもらうのもありかもしれねぇな。

 ......まあ、退院して以降、咲さんとは全くマトモに会話ができてないんですけどね。

 よし、次は岬さんの順位を見てみよう。えーと、岬京香、岬京香......って、へ!? 270人中1位だと!? うへぇー! あの子そんなに頭が良かったのか!! めちゃくちゃすげえじゃん! よし、今度勉強を教えてもらおうかな。岬さんの家に行った後は、結構SNSでメッセージのやりとりしてるし、なんか頼めば普通に教えてくれそうな気がする。

 よし、では最後は大本命。仁科の順位を見てやるとしよう。まあどうせ250位くらいだろうけどな......ってあれ? おかしいな? 200位台に仁科の名前が無いぞ?

 と、少し焦りを覚えた時だった。



「へっへーん、残念だったな田島ぁ! 私は145位、そしめあんたは220位! よって私の勝ちぃ!」

「痛い! 痛い仁科! 離して! お願いだから離して!」

 なんと、後ろから駆け寄ってきた仁科唯本人から突然ヘッドロックを喰らった。

 って、首超痛ぇぇぇ!! それと、さっきから仁科の豊かな2つの丘が側頭部に当たってるぅぅぅ!! 痛いのと柔らかいのとで感覚が迷子になるぅぅぅ!! 

「あ、ごめん。田島に勝ったのが嬉しくてついつい技を決めちゃったよ」

 そう言って『テヘヘ』と言いつつ悪戯に笑った仁科は、ようやく技を解いてくれた。

 ふぅ、やっとヘッドロックから解放されたか。いや、ホント今のはヤバかったぜ。ずっと首の痛みのことで頭がおっぱい、じゃなくていっぱいだったわ。

「えっへん! とにかくこれで私の勝ちだからね!」

「ああ、完敗だよ、完敗。いや、お前マジですげえな。どんだけ勉強したんだよ」

「えへへ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

 そう言って得意げに胸を張る仁科。

 ......っておい、お前。目のやり場に困るからそのポーズはやめろ。

「えー、ところで仁科さんよ。まあ約束通り、俺はお前の言うことを何でも聞くことになったわけだけどさ。結局お前は俺に何をさせるつもりなんだ?」

「ふふ、それは放課後のお楽しみよ♪」

「いや、全然楽しみじゃないから今言ってほしいんだが.....」

「いや、別に今じゃなくてもいいじゃん。敗者は勝者に従いなさい♪」

「へいへい、分かりましたよ。じゃあ放課後に聞きますよ」

 そして一通り話し込んだ俺たちは、2学期最後のHRを受けるべく1年6組の教室へと向かったのであった。


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 終業式は特に何の問題もなく終了。まあ仁科に何をされるのかが気になり過ぎて、校長の話は全く頭に入らなかったんだがな。まあ、普段から校長の話は全然聞いてないし、そこは別にどうでも良いんだが。

 そして現在、無事に放課後を迎えた俺は体育館裏に向かっているところである。仁科曰く、今回、俺に下す罰ゲームはそこで実行するらしいのだ。


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 そして、なんだかんだで俺は仁科と共に体育館裏に到着。

「よっこいしょっと」

 すると仁科は体育館裏に着いた瞬間、突然地べたに座り込んだ。

「え、えっと、仁科さん? なんでいきなりそんなところに座ってるんですかね? つーか、こんなところにまで連れてきて俺にさせたいことって何なんですかね?」

「......ここで私の話を聞いて。それが私が田島にさせたいことだよ」

「え? そんなことでいいのか? てっきり俺は、もっとエゲツないことやらされると思ってたんだが」

「いや、私をなんだと思ってるのよ。まあ、いいからアンタはこっちに座りなさい」
 
 そう言った仁科は、自身の右隣の地面をポンポンと叩いて俺を招いていてきた。

「え、えっと......じゃあ失礼します」

 そして俺は、仁科に促されるがままに彼女の隣に座る。

 ......って、え? この状況、冷静に考えなくてもやばくないか?

 いや、だって人目が全然無いところで女の子と2人きりなんだぞ!? やべぇ! なんか緊張してきた! いや、待って!? 仁科は今から俺にどんな話をするつもりなんだ!?