その日の夜。
豊明は夢を見た。
今まで、何度も見た夢だ。
目の前に、血塗れの母親が見える。
その顔は、恨めし気にこちらを睨んでいる。
それはそうだろう。
何故なら、母親が死んだのは――
母親が死んだ原因は――
「そうだ、お前のせいだ」
場面が切り替わった。
父親が、憎悪を浮かべ、睨み付けて来る。
「お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……」
豊明は、冷蔵庫の中に閉じ込められる。
狭く閉ざされた空間の中。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、ただ。
身体が冷たくなって行く。
そして。
そのまま。
一人。
孤独に――
………………
………………
………………
目が覚めると。
豊明は、いつの間にか涙を流していた。
いつものように、涙を拭い。
再び、目を閉じる。
だが、なかなか寝付けなかった。
※―※―※
次の日の昼。
出会った最初の頃は弁当持参の豊明の方が体育館裏に着くのが早かったが、昨日と今日は河和の方が早かった。
というのも、来週末が体育祭という事もあり、違うクラスの体育委員や体育祭実行委員の女子生徒たちが、「体育祭に関して、生徒会の方に確認させて欲しい点があるんです」と言って、昼休みに豊明に話し掛けて来ることが多くなって来たからだ。
生徒会役員がいるはずのクラスの女子さえも、何故か他の役員ではなく会長である豊明に話し掛けて来ていたが、無下に扱う事も出来ず、豊明は“スイッチ”を使いつつ対応していた。
女子生徒たちにとっては、体育祭にかこつけて憧れの豊明と言葉を交わしたい、という一心だったのだが、豊明は気付かず、出来るだけ簡潔に質問に答えてその場を立ち去っていた。
豊明が体育館裏に到着すると、やはり河和は既に来ていた。
二人は、いつものように昼食を食べながら雑談を始めた。
会話は弾み、二人とも時折笑顔を見せる。
それはいつしか、単なる雑談ではなく、談笑と呼べるようなものになっていた。
実はこの日。
最近豊明が昼休みになる度にどこかへ行く事を怪訝に思い、こっそり後を付けて行った女子生徒がいた。
少し距離を空けて尾行して行くと、豊明は、体育祭に関して質問して来る女子たちの対応をした後、体育館裏へと向かった。女子生徒が物陰から覗くと――豊明は河和と会っていた。
女子生徒は、小さく声にならぬ声を発しながら顔を歪め、親指の爪を噛んだ。
だが、談笑する豊明たちが気付くことは無かった。
※―※―※
翌日。
金曜日という事もあり、授業が全て終わった後は、部活に入っていない者たちは解放感と共に意気揚々と帰路に就いて行く。
“ザ・不良”とも言うべきその見た目に反して絵が大好きな河和が、そんな帰宅部連中と擦れ違いながら美術室へと向かっていると――
「豊明って、このまま行けば、A大学の推薦貰えるんだってよ」
下駄箱へと向かう男子二人と擦れ違った。
二人の会話が聞こえて来る。
「マジか!? やっぱ、完全無欠のクール生徒会長様は違うな!」
「あいつ、絶対人生イージーモードだよな?」
「間違いねぇ。クソッ! 何か不祥事起こして、推薦取り消されちまえ!」
「良いなそれ! 俺もそうなる事を祈ってるわ!」
そんな事を言い合いながら、彼らは通り過ぎて行った。
河和は、眉を顰めた。
好き勝手言いやがって。アイツが今までどれだけ苦労して来たかも知らない癖に!
そう思い、自分の事のように怒る河和。
だが、その時。
ふと、河和は立ち止まった。
……って、え? 不祥事?
もし、不良と……ヤンキーと一緒につるんでるのがバレたら、それって、不祥事になるんじゃ……!?
一度湧き上がった疑念は、不安という形になって、河和の心を苛んでいった。
豊明は夢を見た。
今まで、何度も見た夢だ。
目の前に、血塗れの母親が見える。
その顔は、恨めし気にこちらを睨んでいる。
それはそうだろう。
何故なら、母親が死んだのは――
母親が死んだ原因は――
「そうだ、お前のせいだ」
場面が切り替わった。
父親が、憎悪を浮かべ、睨み付けて来る。
「お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……お前のせいだ……」
豊明は、冷蔵庫の中に閉じ込められる。
狭く閉ざされた空間の中。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、ただ。
身体が冷たくなって行く。
そして。
そのまま。
一人。
孤独に――
………………
………………
………………
目が覚めると。
豊明は、いつの間にか涙を流していた。
いつものように、涙を拭い。
再び、目を閉じる。
だが、なかなか寝付けなかった。
※―※―※
次の日の昼。
出会った最初の頃は弁当持参の豊明の方が体育館裏に着くのが早かったが、昨日と今日は河和の方が早かった。
というのも、来週末が体育祭という事もあり、違うクラスの体育委員や体育祭実行委員の女子生徒たちが、「体育祭に関して、生徒会の方に確認させて欲しい点があるんです」と言って、昼休みに豊明に話し掛けて来ることが多くなって来たからだ。
生徒会役員がいるはずのクラスの女子さえも、何故か他の役員ではなく会長である豊明に話し掛けて来ていたが、無下に扱う事も出来ず、豊明は“スイッチ”を使いつつ対応していた。
女子生徒たちにとっては、体育祭にかこつけて憧れの豊明と言葉を交わしたい、という一心だったのだが、豊明は気付かず、出来るだけ簡潔に質問に答えてその場を立ち去っていた。
豊明が体育館裏に到着すると、やはり河和は既に来ていた。
二人は、いつものように昼食を食べながら雑談を始めた。
会話は弾み、二人とも時折笑顔を見せる。
それはいつしか、単なる雑談ではなく、談笑と呼べるようなものになっていた。
実はこの日。
最近豊明が昼休みになる度にどこかへ行く事を怪訝に思い、こっそり後を付けて行った女子生徒がいた。
少し距離を空けて尾行して行くと、豊明は、体育祭に関して質問して来る女子たちの対応をした後、体育館裏へと向かった。女子生徒が物陰から覗くと――豊明は河和と会っていた。
女子生徒は、小さく声にならぬ声を発しながら顔を歪め、親指の爪を噛んだ。
だが、談笑する豊明たちが気付くことは無かった。
※―※―※
翌日。
金曜日という事もあり、授業が全て終わった後は、部活に入っていない者たちは解放感と共に意気揚々と帰路に就いて行く。
“ザ・不良”とも言うべきその見た目に反して絵が大好きな河和が、そんな帰宅部連中と擦れ違いながら美術室へと向かっていると――
「豊明って、このまま行けば、A大学の推薦貰えるんだってよ」
下駄箱へと向かう男子二人と擦れ違った。
二人の会話が聞こえて来る。
「マジか!? やっぱ、完全無欠のクール生徒会長様は違うな!」
「あいつ、絶対人生イージーモードだよな?」
「間違いねぇ。クソッ! 何か不祥事起こして、推薦取り消されちまえ!」
「良いなそれ! 俺もそうなる事を祈ってるわ!」
そんな事を言い合いながら、彼らは通り過ぎて行った。
河和は、眉を顰めた。
好き勝手言いやがって。アイツが今までどれだけ苦労して来たかも知らない癖に!
そう思い、自分の事のように怒る河和。
だが、その時。
ふと、河和は立ち止まった。
……って、え? 不祥事?
もし、不良と……ヤンキーと一緒につるんでるのがバレたら、それって、不祥事になるんじゃ……!?
一度湧き上がった疑念は、不安という形になって、河和の心を苛んでいった。