「もしかして、萌ちゃん、妹さんはもう」
「中学二年生だよ」
「まだ若いのに……」
「そう、若いんだ」
【そしてかわいい】
「でも、私は妹さんのことは知らないの」
【やっぱり萌、かわいい】
「じゃあ、なんで妹の名前を?」
 八王子君の視線は、写真の妹さんに固定されたままだ。
【ああ、かわいい】
「それは、ちょっと風の噂で」
「そうか。まあ、中学でも人気者だし、噂になるのも無理はないな」
【やっぱり萌はかわいい】 
「あの、聞いていいかな?」
「なに?」
「なんで妹さん、亡くなったの?」
「誰が萌が死んだなんて言った?」
 八王子君はそう言ってこちらを思いきり睨みつけてくる。
 その表情はまるで氷のように冷たい。
 彼のこんな顔を見るのは初めてだ。
 背筋がぞくりとして、思わず後ずさりをした。
「だって写真を持ち歩いてるから」
「かわいい妹の写真を持ち歩いて何が悪い?」
「別に何も悪くないです」
「萌をいつでも見ていたいという兄心を、誰もわかってくれない!」
 八王子君は、珍しく声を荒げた後で、再び写真に視線を落とす。
【萌、かわいいな】
 妹さんの写真を見る時の八王子君は、頬が緩みっぱなしで鼻の下なんかも伸びて、今にも顔がとろけそうだ。
 何よりも八王子君のこの本音。
 さっきから【萌、かわいい】しか言ってない。
 私は確信した。
 こいつ、ただのシスコンだ!
 しかも多分、重度。
 皐月にこのことを教えたほうがいいのか、それとも教えないほうがいいのか。
 どっちにしても、やっぱりこの能力いらないなあ。

 朝起きれば、額に本音が見えるなんて奇妙な出来事も消えてるかも。
 そう思って次の日の朝、両親の額を見て愕然とした。
 今日も私は、他人の額を気にして生きていかなきゃいけないみたいだ。
 憂鬱な気分で足取りも重く、学校へ向かう。
「おはよう、実瑠」
 廊下と皐月とバッタリ会い、私は「おはよう」と返す。
「それにしても、吹奏楽部、朝練多いよね。皐月、大変だねー」
「大変だけど楽しいからね」
 そう言ってニッコリと笑う皐月に癒されていると、ふと周囲に人がいないことに気づく。
 今なら、皐月に八王子君が重度のシスコンだということを打ち明けてもいいのでは?
 そんな思いがよぎって、私は「あのさ、皐月」と口を開く。
 すると、皐月がこちらを見ていないことに気づく。