一時限目にしてお疲れモードなのか、それとも私が世話をかけたのだろうか。
 後者なら申し訳ないなあ。
 すると、かすかに何かが振動する音が聞こえてくる。
 八王子君はハッとして、ズボンのポケットに手を突っ込んで、それからやさしく微笑んだ。
「じゃあ」と私から離れる八王子君の額をちらりと見てみると、【(もえ)からの返事だ!】という本音が見えた。
 八王子君の手にはスマホが握られていて、にこにこしながら画面を見ていた。
 萌? 女の子の名前だよね。
 あんなにうれしそうにしてるってことは……。
 まさか、彼女?!
 私は八王子君から視線をそらし、それからため息を一つ。
 完璧王子に彼女がいてもおかしくないか。
 ああ、これは皐月に伝えるべきかなあ。

 ぼっちのお昼休みを終え、教室に戻りながら考える。
「萌ちゃっんて、どういう子なんだろ」
 私はそう呟き、皐月よりも美人なのかなあと色々と想像としてみた。
 そして、ドアに手をかけようとした時。
 背後から声をかけられた。
「出来さん」
 振り返ると、八王子君が立っていた。
 やばい……今の独り言、聞こえたかな。
 いや、誰かに聞こえるほど大きな声で呟いたつもりはないから大丈夫。
 私がそんなことを考えながら「なに?」と聞いてみる。
 八王子君はにこにことしたまま口を開く。
「なんで萌のことを知ってるの?」
 聞こえてたーーーー!!!
 慌てて言い訳をしようと試みるが、不意打ち過ぎてうまく頭が回らない。
「えーっと。色々とあって……」
 さすがに額に書いてあった本音を見たとは言えないし、言っても信じてくれないだろうな。
 八王子君は、にこやかな笑みをたたえたまま、「そうか」と頷く。
 その額には【気になる】と大きく書かれてある。
 え? なに? そんなに気になる?
 ってゆーか、なにが気になるの?
 私が戸惑っていると、八王子君は相変わらず笑顔のままでこう言った。
「今日の放課後、この教室に残っていてくれないかな?」
 彼の額には相変わらず【気になる!】としか書かれていなかったのだ。
 
 放課後。
 私は教室でぼんやりと席に座っていた。
 教室にいるのは、私だけ。
 八王子君は呼び出したくせにまだ来ていない。
 そもそも八王子君が、なぜ私を呼び出したのか不明。