その点、皐月は中学の頃から私を庇ってくれたな……唯一の親友だ……。
 そんな現実逃避という記憶の旅に出ようとした瞬間。
「さ、出来さん、スマホ出しなさい」
 英語教師が目の前でそう言ってにっこり微笑む。
 額には、【あー。生徒の物を没収する瞬間ってストレス発散ねー!】となかなか最低な本音が。
 もう逃げられない気がする。
 私が観念しようと、ブレザーのポケットに手を入れようとした瞬間。
「先生、何か勘違いをしていませんか?」    
 そう言って立ち上がったのは、八王子君だった。
「え? なにが?」
 先生は八王子君のほうを振り返る。
 クラス全員の視線が彼に集中した。
 八王子君は落ち着いて話し始める。
「先生は、マリオンという男性にプロポーズされたんですよね? でも彼には恋人がいた、それって最悪な男ですよね」
「ええ、まあ、そうだけど」
「先生は、マリオンのプロポーズをきっぱりと断った、先生は先ほどここまで話されました」
「そうね。その直後に出来さんが『やった!』と叫んだのよ」
「つまり、先生がそんな悪い男にひっかからなくて良かった、という心の声が思わず声に出ただけなのではないのでしょうか?」
 ナイス! 相変わらず君のおでこには、何も見えないけど。
「はい、そうです。八王子君の言う通りです!」
 私も彼の意見に乗っかることにした。
 先生はため息をついてから、「そう」とだけ呟く。
「まあ、いいわ。確かにそうね」
 そう言って悲しそうな顔をする先生の額には、【そうよね、出来さんは私の話を熱心に聞いてくれていたのよね】という本音。
 うっわー、なんて素直な人だろう。
 そして、八王子君はにっこりと微笑んでから口を開く。
「先生はとてもすてきな大人の女性なんですから、マリオンより良い男性なんか星の数ほどいますよ」
「そうかしら?!」
 先生は照れていたものの、【やだ、八王子君ってば。私のこと好きなのかしら?】という本音が浮かび上がっている。
 先生まで惚れさせる八王子パワー、恐るべし。

 その日の休み時間、私は八王子君にお礼を言った。
「ありがとう。フォローしてくれて」
「いや、いいんだよ。あの先生、ちょっとしつこいからね」
 八王子君は、そう言ってイタズラっぽい笑みを見せる。
 額には【疲れたなあ】という本音。