「ありがとう。私も大好きだよ。何でも話してね」
 皐月はそう言って私をぎゅっと抱きしめてくれた。
 通り過ぎていく男子の額に【お、百合だ】とか【うわー。そういう関係?】という本音が見える。
 誤解を招いてる……。
 私は皐月から離れ、教室に戻るべく踵を返す。
「告白、頑張ってね」
「うん。ありがとう」
 私はそう言って笑うと、教室へと戻った。
 勢いづいてしまったけど、今日は八王子、お休みなんだよね。
 告白はともかく、萌ちゃんの手術がうまくいってほしい。

 その日は本当に穏やかな日だった。
 昨日までの暑さが嘘のように、今日は涼しい。
 気温だけじゃなく、イジメもなくなって、グループの女子は相変わらず本音だだ漏れだけど、うまくやれている。
 あの嫌がらせを経験したからなのか、『敵意を向けられてないならいいか』と思えるようになった。
 だけど、今日はお昼休みのみんなの恋バナも右から左へと通り抜けていく。
 私の頭の中は、萌ちゃんの手術のことでいっぱいだった。
 いつ、手術なのかもわからないけれど。
 きっと手術が終わって落ち着けば、八王子はメッセージをくれる。
 ……と思う。
 だから、そわそわしてスマホを何度も確認してしまっていた。
 
 そわそわしたまま、放課後になり、家に帰っても八王子からの連絡は来ない。
 自室で私はスマホの画面とにらめっこをしていると、メッセージが届いた。
 八王子からだ。
 私は深呼吸をしてから、スマホを操作してメッセージを読む。
 そこにはこう書かれてあった。


  萌の手術、成功した!
  まだ入院は必要だけど、順調に回復していけば元の学校生活に戻れるって担当医が言ってくれたよ。
  本当に良かった。
 

 私は安心して、思わずその場に寝転んだ。
 本当に良かった……。
 私はホッと胸をなでおろしてから、スマホを操作する。


  萌ちゃん、良かったね。
  私も、いつかお見舞いに行ってもいいかな?


 そうメッセージを送ると、返事はすぐにくる。
 

  おう。来てやってくれ。喜ぶよ。
  萌に出来のこと話したら「ふつつかな兄ですがよろしくお願いします」だってさ。
   

 萌ちゃんはブラコンじゃなさそうだ。
 ってゆーか、八王子は萌ちゃんに私のこと、どう話したんだろ?
 そう思いつつ、返事をする。