だって教室には大勢のクラスメイトがいて、おまけに今、『でこ出しファッション』が大流行中。
 特に高校生女子の間で流行してて、おまけに男子もでこ出しが増えている。
 学校に来るまでにわかったことだけど、髪の毛に隠れてしまったり帽子をかぶっていたりする人の本音は見えない。
 本音の文字が隠れてしまえば見えない仕組みらしい。
 だけど、クラスメイトたちは、半数以上がでこ出しファッションだろう。
 ああ……今日突然、でこ出しファッションじゃなく、でこ隠しファッションが流行している、ということはないかな。
 そう願いつつ、教室のドアを開ける。
「あ、おはよー、でこっち!」
 そう言って笑顔で挨拶してきた女子の額には、【なに暗い顔してるんだろ。失恋かな? それなら聞き出してやろ】と書かれてあった。
 うわー面倒くさっ!
 私が後ずさりをしていると、別の女子がやってくる。
「ねえねえ、でこっち、あやちー、聞いてよー」【彼氏ができたから自慢させろ!】
「なに? 元彼とヨリ戻したとか」【あのブサイクかー。お前ならお似合いだよ】
 私は女子二人の会話(主に額の本音)についていけず、無言で教室を飛び出した。

 ちなみに、あの二人の女子は私が所属するグループで、仲が良いと思っていた二人だ。
 だけど、心ではあんなこと考えてたんだなあ……。
 もう本音が見えるようになってしまった以上、私はあのグループにはいたくないし、いられないな。
 でもなー、一人ってのもなー。
 私が廊下をふらふらと歩きつつ、うんうんと唸っていると、「実瑠、どうしたの?」と聞き覚えのある声が聞こえた。
 顔をあげると、見とれるほどの美人が立っている。
 彫りの深い端正な顔立ちにスラリとした長身で、手足は長く、まるでもデルのよう。
 彼女は橘皐月|《たちばなさつき》。中学からの親友だ。
 同じ高校を受験して共に合格したものの、クラスは離れてしまった。
「皐月! 私……」
 そう言かけて、皐月の額を見る。
 皐月もロングヘアーを後ろですっきりと一つにまとめて、前髪はヘアピンで夏っぽく、というつまりおでこ全開のスタイル。
 すると、彼女の額に文字が浮かび上がった。
【どうしたんだろ? 実瑠ってば具合い、悪いのかな?】
 私のことを心配してくれるなんて!
「皐月さまああああ!」
 私は思わず、皐月に抱きついた。