ガタガタと震えながら、蚊の鳴くような声で沢渡が言う。
「だけど、私にこれ以上関わらないって誓うなら、材料にしない」
「しない、しない」
 沢渡はこくこくと頷く。
「ついでにこのことも内緒ね」
 私の言葉に頷く沢渡の額には、【死にたくない!】と書かれてある。
 そして、沢渡はよろよろしながら立ち上がったかと思うと、慌てて教室を出て行った。
「さすがだな」
 私はそう言って右手にあるプラスチックのケースを見る。
 そこにあるのは、作り物の目玉。
 これは、前に社会科資料室にあった演劇部の小道具だ。
 演劇の部の人に許可をもらって借りてきた。
 さっき八王子に聞いたら、大会が終わったから、これをつくった先輩は目玉を捨てるところだったらしい。
 なので、『いいよあげるよ』と演劇部の先輩は快く譲ってくれた。
 そんなわけで、クオリティの高い、むしろ遠目で見れば本物の目玉にしか見えない作り物は大いに役に立った。
 そして、私のこのおかしな能力も。
    
 次の日、ビクビクしながら学校に行くと下駄箱はきれいだったし、上履きもあった。
 教室の机も異常なし。
 沢渡の手下女子ズは、見かけないし、沢渡自身は怯えた目で見て逃げて行く。
 もう、大丈夫だ。
 そう思って心底、ホッとした。
 席についてぼんやりしながら思い出す。
 ああ、そういえば、今日は萌ちゃんの手術の日だっけ。
 成功するよ、きっと。
 私はそう自分に言い聞かせて、もう一つの問題を片づけることにした。
 もう一つの問題が大きいわけだけど。

「皐月!」
 私は三組に行って皐月を呼び出した。
「ん? どうした?」
「イジメのほうは解決した?」
「うん。解決したよー。今回はクラスの女子全員が味方になってくれたしね」
「相変わらず頼もしいなあ」
 私はそう言って笑う。皐月は本当にすごいな。
 だけど、今の私も皐月ほどじゃないけど、ちょっと無敵モードだ。
「皐月、ちょっと話があるんだけど」
「ああ、うん。いいんだけどさ」
 皐月はそう言うと、廊下に視線を向ける。
「今日は、彼、通らないね。八王子君、だっけ?」
「え? ああ、うん。今日は休みみたいで」
「そっかー。じゃあ、あれ、見られないんだなあ」
「あれ?」
 私が首を傾げると、皐月は【実瑠には打ち明けるか】という本音を浮かび上がらせつつ口を開く。
 なんだなんだ。