沢渡が怒鳴りつけてくる。
「いや、それこっちの台詞なんだけど」
「はあ? なに言ってんの?」
【まさかイジメが私の指示だってバレた?】
「うん。バレてるよ」
「え?」
【なんで? 声に出してないよね、私】
「声に出してないよ」
「なに? どういうこと? 気持ち悪いんだけど」
 沢渡の表情が少しだけ強張った。
【なんなのこいつ】
「なんなのこいつ、は私の台詞」
「……さっきからなに? まるで私の心、読んでるみたいな」
「読んでるんだよ」
【頭おかしくなったの?】
「おかしくなってないんだよ。残念ながら」
「そんなわけない。心が読めるなんて嘘でしょ」
【どんな手をつかってるの?】
「どんな手もつかってないっつーの」
「やめて!」
 沢渡はそう言って私から後ずさる。
 その顔には恐怖の色が浮かんでいた。
 額には、こんな本音が浮かび上がる。
【こんな不気味な奴と八王子君が仲がいいだなんて……】
 それを見て私は、一気に畳みかけることにした。
「あのさ、勘違いしないでほしいんだけど、私と八王子君のこと」
「勘違いって、別にあんたみたいなのを八王子君が相手にするわけないでしょ」
「そうね。というか、まあ、ここだけの話」
 私はそこで言葉を切り、わざと教室の外を見てからめいっぱい声のボリュームをしぼって続ける。
「私のお客だから」
「は?」
「八王子君は私のお客なのよ」
「お客ってなによ」
「私、心が読めるだけじゃないのよ。ちょっとした薬もつくれたりするのよね」
「薬? なに言ってんの?」
【こいつヤバいこと言いだした。逃げなきゃ】
 私はスカートのポケットの中に忍ばせておいた物を取り出し、沢渡に見せる。
「ねえ、ちょっといい材料が入って、久々に惚れ薬をつくれることになったんだけど、あんたもどう?」
 私の言葉に沢渡は、「惚れ薬だなんて存在するわけ――」と言ったきり、黙りこんだ。
 その視線は、私の右手に、正しくはプラスチックのケースに注がれている。
 ごくりと沢渡が生唾を飲み込む音が、聞こえてきた。
 プラスチックのケースの中の物を目玉だと判断した沢渡は、その場に尻もちをつく。
 顔が真っ青だ。
「もちろん材料が高いからタダなんてわけじゃないからね。おまけにあんたは私をイジメてたから本当は材料と使いたいくらいだけど」
「やめて、もう、本当に」