「なんでジャージなんだよ」
「ジュースこぼしちゃって」
「ふーん」
 八王子はそう言うと、小さくため息をついて続ける。
「体育って一時限目だろ。ジュースなんか飲んでた?」
「え? うん……」
 私がそう言って八王子から視線をそらそうとすると。
【嘘つけ】
 八王子の額には、そう本音が浮かび上がっている。
 助けてくれるかもしれない。
 そう思ったけれど、今まで無視していた人にこんな時だけ『助けて』なんて、虫が良すぎる。
「別に、お前が言いたくないならいいんだよ。でも、何か困ってるなら言ってくれ」
 その言葉に、鼻の奥がつんとしたけどぐっと涙をこらえた。
「ありがとう」
 もう八王子に頼ってしまおうか。
 きっと助けてくれる。
 そう思って、すべて話そうとした直後。
 八王子の額に、こんな本音が浮かび上がる。
【明日が萌の手術じゃなかったら、もっと心に余裕を持っていられるんだけど】
 え? 明日、萌ちゃんの手術なの?
「ねえ、萌ちゃんの手術って、その、大変なの?」
「うん。その手術が成功すれば、萌は助かる」
「え?」
「ま、そういうことだ。だから俺は明日、萌に付き添うから学校は休むよ」
「そっか。そばにいてあげて」
 私はそう言ってから、ぐっと拳を握る。
 ダメだ。八王子にも頼れない。
 萌ちゃんが手術だっていう時に、私のイジメのことなんか話せないよ。
 かと言って、皐月も忙しそう。
 じゃあ、頼れるのは……。
「私しかいない」
 それだけ言うと、私は急いで教室に戻った。

 沢渡に直接文句を言ってやろう。
 そう思ったけど、汚い手をつかう奴は、嫌がらせのことなんて認めないだろう。
 じゃあ、どうすればいのか。
 通りすぎる生徒の額の本音を見て、ふと思いつく。
 そうだ、私にはこの能力があるんだ。
 有効活用してやろーじゃないか。
 そう考えた途端、ふと名案が思いつく。
「あれを借りられれば、計画は完璧」
 私はそれだけ呟いて、八王子の姿を探した。
 八王子の姿を見つけるなり、こう聞いてみる。
「演劇部について、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」  

 自分にも武器があるとわかった途端、なんだか防御力の高い鎧をまとっているような気分になれた。
 放課後に沢渡の首根っこを掴んで、誰もいなくなった教室に引っ張りこんだ。
「なにすんのよ!」