じゃあ、もう我慢をするしかないな。
 あんまり長く続くようなら皐月に相談すればいい。
 大丈夫、私は一人じゃないんだ。
 そう思うと、少し勇気が出た。

 とりあえず、八王子のことは徹底的に無視をした。
 彼のことをあきらめたいから、という理由もあるけれど、今はそれどころじゃない。
 私が一体、何をしたって言うんだ。

 そんな心の叫びが届くはずもなく、口にする勇気さえなくて。
 次の日も、その次の日も、私の下駄箱はゴミだらけだったし、上履きがゴミ箱に入っていたこともあったし、机の中には画びょうが仕込まれていた。
 さすがに体育の時間から帰ってきた時に、制服がハサミで切られていたのは、かなり痛かった。
 私は仕方がなくジャージで過ごすことにする。
「どうしたの? なんでジャージなの?」と聞いてくるグループの女子に、「さっきジュースこぼしちゃった」と誤魔化すので精一杯。
 ふと視線を感じてそちらを見ると、沢渡さんがこちらを見ている。
 そのおでこには、【あいつら、きっちり出来をイジメてるみたいね】という本音。
 私はその本音に目を疑った。
 大きく深呼吸をしてから、気持ちを落ち着かせる。
【あいつら、きっちり出来をイジメてるみたいね】って。 
 まるで沢渡さんがイジメを指示しているみたいだ。
 私はそう考えて、沢渡さんに恨まれるような覚えはないよね? と記憶を手繰り寄せる。
 ああ、そうだ。
 先週、八王子に廊下の隅に呼び出されて既読スルーの話をされた時。
 沢渡さん、こっち見てたな。
 あの時、会話をこっそり聞いてたとしたら。
 しかも沢渡さん、八王子のこと好きだし。
 そこでようやく、パズルピースがかちりとハマるように、この嫌がらせの原因がわかった。
 沢渡さんか。
 いや、もう『さん』なんてつけてやらない。
 沢渡か、主犯は。
 沢渡があの二人に、私を嫌がらせしろって命じてるのか。
 それでやるほうもやるほうだけど、直接、手を下さないのも汚い。
 私は怒りで震えるものの、本人に文句を言う勇気が出ない。
 
 お昼休み、私は自然と屋上へと向かっていた。
 いつものグループでお昼を食べたくないわけじゃない。
 沢渡と同じ空間にいたくないし、同じ空気を吸いたくないからだ。
 屋上に入ると、直後に誰かが入ってくる。
 振り返ると、八王子が立っていた。