恐る恐る教室へ行くと、机に落書きされている形跡も、花が飾ってあるということも、黒板にありもしない噂が書かれていることもなかった。
 ホッとして、机の中に手を入れると違和感がした。
 驚いて置きっぱなしにした教科書を取り出すと、カッターでビリビリに引き裂かれてある。
 そこで私は、確信した。
 イジメが始まったのだ、と。
「おっはよー、でこっち!」
 その声に、慌てて教科書を隠す。
 挨拶をしてきたのは同じグループの女子。
 彼女の額には、【サボりたいなー】としか書かれていない。
 普通に接してくれている。
「どうしたの? 顔、青いよ?」
 そう聞かれて「なんでもない」と答える。
 それから教室を飛び出そうと、ドアを出ると誰かとぶつかった。
 女子二人が、ぎょっとしてこちらを見る。
 その額には【教科書に落書きもしてやれば良かった】と【こいつが例の出来って奴ねー。ふーん。ブスだわ】と。
 ああ、こいつらか。
 こいつらが私に嫌がらせをしているんだ。
 女子二人は、「近づいてこないでよーうざっ!」と言いながら逃げて行った。
 ああ、この感覚、イジメを面白がってる雰囲気だ。
 だけど、何の面識もない別のクラスの女子。リボンの色から判別にするに一年生。
 そんな奴らに嫌がらせをされる覚えはない。

 一時限目の終わりに、私はこのことを皐月に相談するべく、三組の教室へ。
 すると、皐月は教室で一人の女子に優しく声をかけている。
 どうやら泣いているようだ。
 皐月は私に気づくと、教室を出てきてくれた。
「どうしたの?」
 その様子はひどく興奮しているよう。
「あ、えっと。なにかあったの?」
「なんかね、うちの男子が、女子をイジメててさー」
「そうなの?」
「そう。どうも予想するに告白を断られたって理由みたいでさー。そんな理由でイジメるなんて●ついてないのかっつーの」
「皐月、落ち着いて。あと、女の子がそんな言葉をつかっちゃダメ」
「ごめんごめん。ああ、実瑠は私に用事があったんだよね?」
 そう言われて、私は頭を左右に振る。
「あー。いいのいいの。大したことじゃないから」
「そう?」
「うん」
 私はそう頷いたあと、こう付け加える。
「大丈夫だから」

 皐月が忙しそうなら、頼ることはできない。
 それに嫌がらせをされる理由もわからない。