そう思うと、どうしても自分の気持ちを直視したくなくなかった。
 認めてしまえば、私は心から皐月を応援できない。
 だからずっと見てみぬふりをしてきた気持ち。
 今日、こうして二人きりで、どういう理由であれ、出かけられることが舞い上がるくらいにうれしかった。
 だけど八王子にとっては、どうでもいいことだったんだ。
 だからきっと、来ないんだ。
 
 時刻は午後一時。
 八王子はまだ来ないし、メッセージは読んだ形跡はない。
 私は『帰るね』とだけ送信して、それから駅に戻って電車に乗った。
 もう、八王子への想いは消してしまおう。
 あきらめて、次の恋を探そう。
 それがいいんだ。
 私は窓の外に視線を向けて、ぼんやりとそんな決意をする。
 車窓の外に、高校生くらいの男女が二人で楽しそうに歩いている姿が見えた。
 デートかな。
「いいな」
 私も早くまともな男子に恋をしたい。

 目を覚ますと、スマホに大量のメッセージが届いていた。
 時刻を確認すると午後六時。
 家に帰って自室に直行してベッドにダイブして、そのまま眠ってしまったらしい。
 メッセージは、八王子からで、心が跳ねあがる自分が嫌になる。
 
   
   ごめん! 妹の容体が急変したって朝に病院から電話があってそれで今まで病院にいた。
   そっちに気を取られてて、連絡するの忘れてた。
   充電も切れてたし……って言い訳にしかならないな。
   本当にごめん。


 妹さん、入院してたんだ。
 私は『いいよ。それより妹さんの容態は?』とだけ返事をする。


   かなり良くなった。
   もうすぐ大きい手術もあるから、すごく心配なんだ。
   本当にごめん。
   もし、良かったら、来週末また萌の誕生日プレゼント選び、付き合ってくれないか?
   お詫びもしたい。
   なんでも奢る。


 そのメッセージにドキドキしたし、すごく返事をしたかった。
 だけど、皐月の顔が浮かんで、私はすぐにスマホをベッドに放り投げる。
 もう、関わらないでおこう。
 この恋は、終わったんだから。

  
 月曜日に重い足取りで学校へ行くと、下駄箱に何か入っていた。
 ジュースの空のパックとか空のペットボトルとか丸めた紙クズとか。
 嫌な予感がする。