遅い、なんてもんじゃない。
 私はスマホと駅を交互に睨みつける。
 あれから一時間が経った。
 八王子は来る気配がないし、さっきからメッセージを送っているのに読んだ形跡すらない。
 まだ寝ているのだろうか。
 じゃあ、電話をかけて起こすべきか。
 散々、悩んだ末に、「やめよ」と言ってスマホに触れた瞬間。
 うっかり電話がかかってしまった。
 慌てて切ろうとしたら、すぐにメッセージが聞こえる。
 どうやら電源が入っていないようだった。
 電源を切っているのか、それとも充電をし忘れたのか。
 どちらにしても、これじゃあ連絡が取れない。
「帰ろうかな」
 私はそう呟いたものの、もう少しだけ待ってやることにした。
 来たらパフェ奢ってもらおう。
 
 正午になった。
 さすがに二時間の遅刻は、怒りではなく心配になってくる。
 まさか事故にあったんじゃないのだろうか。
 それとも熱中症で倒れているのではないか。
 そんな嫌な想像が頭の中を駆け巡る。
 だけど、ただの寝坊かもしれない、と思う冷静なもう一人の自分がいる。
 もし、遅刻だとしたら私は寝不足でも二十分前に着いたのに、二時間の遅刻ってどうなの?
 それって私は所詮、
 そこまで考えて、ふと気づく。
 所詮、なんだろう。
 実際に私は、所詮、ただのクラスメイトじゃないか。
 今日は別にデートでもなんでもない。
 ただ妹さんの誕生日プレゼントを選ぶのに付き合わされるだけ。
 八王子にとっては、私はクラスメイトで連絡先を知っている存在。
 じゃあ、私にとって、八王子はなんだろう。
 そこまで考えた時、ふと頭の中にこんな言葉が浮かぶ。
『好きな人』
 違う、好きなんかじゃない。
 そう否定したてみたけれど、『好きな人』という言葉と八王子の顔が頭から離れない。
 ああ、そうだ。
 私、前から八王子を意識していたんだ。
 それを見てみぬふりしていただけ。
 いつからだっけ。
 そう思ってぼんやりと記憶を手繰り寄せる。
 八王子とお昼食べると気楽で、鈴木に付き合ってるんじゃないかって言われた時もかばってくれて。
 性格悪いシスコンだと思っていたけど、案外良い奴じゃん。
 そう思って、私は、どんどん好きになっていた。
 そんなことわかっていた。
 だけど、八王子は皐月の好きな人。