出来のスタンプ、かわいくねえな。


「どうでもいいな」
 私はそう呟いて、既読スルーをすることにした。   


「出来、ちょっと」
 金曜日の休み時間。
 私は八王子に呼び出されて廊下の隅に連れて行かれる。
「なに?」
「なんで俺のメッセージ既読スルーすんの?」
「え? 返信必要?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
 八王子はそこまで言うと、額にふっと本音が浮かび上がる。
 たった一言。
【寂しい】
 私は胸がずきりと痛み、同時になんだかくすぐったい気持ちになった。
 そんな本音とは裏腹に、八王子は口を開く。
「毎回、毎回、俺のメッセージを既読スルーすんのは何なの? 人としてどうなんだよ」
「あんたもマメだよね……。読んでるから大丈夫だよ」
「じゃあ返信してもいいだろうが」
「ほしいの?」
 私の言葉に八王子が、こちらを睨みつける。
「いらねえな」
 その額には【なんだ返事くれないのか】という本音。
 私は八王子に気づかれないように、ため息をついた。
 ふと誰かの視線を感じて、辺りをキョロキョと見回す。
 まさか、皐月じゃないよね?
 この話、全部、聞かれてないよね?
 そう思って探してみたけど、ちょうど沢渡さんが教室に入っていくのが見えただけだった。
 沢渡さん、私も忘れかけていたけれど、八王子に告白してたよね。
 あれからきっぱりあきらめたのかな。
 あきらめたほうがいいよ、八王子はシスコンだし、完璧王子でもなんでもないんだから。
 
 家に帰ると、私はクローゼットを開けて「うーん」と腕組みしたポーズのまま固まっていた。
 自分の服のセンスがないことに絶望したのではない。
 明日、着る服に悩んでいるのだ。
 相手が八王子だから気合いを入れるのではない。
 待ち合わせ場所がそれなりに都会だから、変な格好をしたくないだけだ。
 私は青色のマキシ丈のワンピースを手に取る。
 ふんわりとしたラインと色合いが夏っぽい。
 もう七月になったんだし、このくらい涼し気でもいいかな、と思うものの。
 だけど、気合い入ってるって八王子に思われたくない。
「じゃあ、これかな?」
 私は、適当なTシャツを体に当て、鏡を見る。
 Tシャツにジーンズって、さすがにコンビニに行くとかそのくらいのファッション。
 さすがにこれでは、八王子に『ダサい』とか言われかねない。