きっといつか、私はこのお昼の状態にだって慣れる。
 そんなことを考えながら、ちらりと教室の黒板のほうを見ると、八王子が他の男子と共にお昼ご飯を食べていた。
 八王子とも、もうああやって言いたいことを言い合えなくなる。
 ああ、清々するなー。
「でこっち聞いてた?」
「え? なに、ごめんボーッとしてた」
「まさか、完璧王子、見てた?」
「見てねえよ!」
 私が思わずそう叫んでしまい、「あ、ごめん」と謝ると、話を振ってきた女子の額に【図星かよ】という本音が浮かび上がる。
 他の女子の額にもそれぞれ、【へー好きなんだ】【そりゃ好きでしょ】【そうだよね】と。
 お前ら額の本音で会話するなよ……。

 楽しい楽しい学校生活。
 ぼっちは卒業したし、親友はいるし、何の問題もない。
 あとは好きな人ができて両想いになれたら、最高だけど。
 私は好きな人がいないし。
 そんなことを考えつつ、今日も帰る支度をする。
 すると、私の机に誰かが触ってきた。
 顔を上げると、八王子。
 なんだか、こんなに間近で顔を見るのが久々だ。
 一緒にお昼を食べなくなって一週間くらいしか経ってないのに、一年ぶりに会ったような気分。
 八王子は無言で、去って行った。
 その額には【気づけよ】という本音があった。
 なに?
 ふと、八王子が触れた机の隅を見ると、白い紙が置かれてある。
 二つに折りたたまれたノートの切れ端だ。
 やけにドキドキしながら、中を開くと、こう書かれてあった。


   今週の土曜日、空いてる?
   萌の誕生日が近いから、プレゼントを選びたいけど女子が多い店に入りずらい。
   そんなわけで、付き添いよろしく。


 きれいな字でそう書かれてあり、下の方には八王子のスマホのLIMEのIDが書かれてある。
「さすがシスコン」
 私はそう呟きつつ、メモを胸ポケットにそっとしまった。

 家に帰ってから、八王子にメッセージを送った。

   
   いいよ。
   土曜日の何時?


 返事はすぐに届いた。


   じゃあ、10時で。


 その返事の直後、ぴんこんとメッセージの音。
 私はがばりと体を起こすと、スマホを操作する。
「なんだ皐月か」
 無意識のうちに呟いた言葉に、自分で驚いた。
 え、なんで私、こんなこと言ったの?